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2025年ノーベル生理学・医学賞、坂口志文氏ら3氏に — 「制御性T細胞」の発見で末梢性免疫寛容の謎を解き明かす

免疫の暴走を抑える「ブレーキ役」Tregを発見した坂口志文氏ほか2氏が受賞。自己免疫疾患やがん治療への応用に大きな期待が寄せられている。

公開日
2025-10-06
更新日
2025-10-07
執筆者
編集部
タグ
2025, 医学賞, 日本人受賞者, 免疫学, 速報

速報

スウェーデンのカロリンスカ研究所は2025年10月6日(日本時間同日夕)、2025年のノーベル生理学・医学賞を、大阪大学免疫学フロンティア研究センター特任教授の坂口志文氏(74)、米システム生物学研究所のメアリー・E・ブランコウ氏、米ソノマ・バイオセラピューティクス社のフレッド・ラムズデル氏の3氏に授与すると発表しました。授賞理由は、"for their discoveries concerning peripheral immune tolerance" ——すなわち「末梢性免疫寛容に関する発見」です。

坂口氏は京都大学名誉教授も兼ねる免疫学の第一人者で、日本人の生理学・医学賞受賞は2018年の本庶佑氏以来7年ぶり、通算6人目の快挙となりました。

「免疫のブレーキ役」を探し続けた30年

坂口氏の物語は、1980年代の地道な実験に遡ります。マウスの胸腺を生後まもなく摘出すると、さまざまな自己免疫疾患が自然発症することを坂口氏は見出しました。胸腺は免疫細胞であるT細胞の「学校」ですが、ここから送り出される細胞には、攻撃役のT細胞だけでなく、それらの暴走を抑える「ブレーキ役」の細胞が混じっているのではないか——そう仮説を立てたのです。

そして1995年、坂口氏はIL-2受容体α鎖(CD25)というタンパク質を目印にすることで、このブレーキ役のT細胞集団を単離し、「制御性T細胞(Regulatory T cells、略称Treg/ティーレグ)」と名付けました。当初、学界は懐疑的でした。「ブレーキをかける細胞など本当に存在するのか」という声は強く、再現実験と分子マーカーの確立に長い歳月を要しました。その後、世界各国の研究室が追試に成功し、現在ではTregは免疫学の基礎概念として確立されています。

Foxp3という「司令塔」の発見

一方、ブランコウ氏とラムズデル氏は別のアプローチから、ヒトの稀少難病である「IPEX症候群」の原因遺伝子を探っていました。IPEXは新生児期から激しい自己免疫症状を示す致死的な疾患です。2001年、両氏は原因遺伝子として Foxp3 を同定しました。

2003年以降、坂口グループと米国グループの知見は劇的に結びつきます。Foxp3は、Tregが「Tregらしく」分化・維持されるために必須の転写因子であり、いわばTregの「司令塔」であることが明らかになったのです。坂口氏のTreg発見と、ブランコウ・ラムズデル両氏のFoxp3発見——独立に進んだ2本の研究路線が統合され、現代免疫学の基盤が築かれました。

何がノーベル賞級の発見だったのか

今回の授賞対象となった要点は次のようにまとめられます。

- 「自己を攻撃しない」仕組みは、胸腺でのT細胞選別(中枢性寛容)だけではない
- 末梢組織でもTregが能動的に免疫反応にブレーキをかけ続けている(末梢性寛容)
- 自己免疫疾患・アレルギー・移植拒絶反応の共通原因がここに集約される
- Tregのブレーキを解除すれば、がん免疫療法への新たな扉が開く

がん治療・アレルギー・臓器移植への応用

Tregは医療応用の観点からも大きな可能性を秘めています。Tregを増やせば、自己免疫疾患(関節リウマチ、I型糖尿病など)、アレルギー、臓器移植後の拒絶反応を抑えられます。逆に、がん組織にしばしば集まるTregを選択的に減らせば、体内の免疫細胞が腫瘍を攻撃しやすくなり、がん治療に結びつきます。実際、Tregを標的とした新しい治療薬や細胞療法の臨床試験はすでに複数進行中です。

坂口氏自身、受賞後の取材に対して「がんは治せる時代に必ずなる」と語り、Tregを基盤とした次世代医療への確信を示しました。

7年ぶり、日本からの生理学・医学賞

日本人研究者の生理学・医学賞受賞は、2018年の本庶佑氏(免疫チェックポイント阻害によるがん治療)以来、実に7年ぶりです。通算では6人目となります。そして2025年のさらに驚くべき出来事として、10月8日には京都大学の北川進氏の化学賞受賞も発表されました。同じ年に日本から2名のノーベル賞受賞者が出るのは近年まれに見る快挙です。

受賞の記者会見では、「基礎研究に長期・安定的な支援を」「若い研究者が腰を据えて取り組める環境を」という提言が坂口氏からも繰り返されました。独創的な発見は、短期的な成果主義の枠組みでは生まれにくいことを、Tregの30年におよぶ歴史そのものが物語っています。

結び

ブレーキのない免疫は暴走し、ブレーキをかけすぎれば病原体やがんに勝てません。絶妙な制御の鍵を握る細胞を、四半世紀以上にわたって掘り下げてきた坂口氏と、その分子機序を解き明かしたブランコウ・ラムズデル両氏の受賞は、基礎生物学が現代医療へ大きな橋を架けた象徴的なできごとといえます。今後、Tregを中核とする新しい治療の現場化が、より多くの患者に恩恵をもたらしていくことが期待されます。

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