1983年ノーベル経済学賞

受賞理由

一般均衡理論の徹底的な改良と経済理論に新たな分析手法を組み込んだこと

受賞者

ジェラール・ドブルー
ジェラール・ドブルー

フランスフランス

解説

経済にはたくさんの人や会社がいて、それぞれ物を買ったり売ったりします。すべての物の値段がちょうど良いと、買いたい量と売りたい量がぴったり合い、品切れも余りも起きません。これを「均衡」と呼びます。ジェラール・ドブルーさんは、そんな魔法のような値段が本当に見つかるのかを数学で証明しました。そのために図形の形や距離を調べる難しい数学(コンベックス解析など)を取り入れました。彼の研究は、世界中の経済学者が計算や予想をするときの土台になっています。わたしたちが安心して買い物できる仕組みを考えるうえでも役立っています。

関連キーワード

一般均衡理論

一般均衡理論は、経済に存在するすべての財・サービスの市場が同時に需要と供給のバランスをとれるかを解析する分野です。個々の市場の相互依存性を数理モデル化し、価格ベクトルの存在や特性を調べます。ドブルーは凸解析と固定点定理を使って存在定理を厳密に証明しました。今日では国際貿易、税制評価、環境政策など多岐に応用されています。理論はまた、マクロ経済学や金融工学の基礎を構成しています。

アロー=ドブルーモデル

アロー=ドブルーモデルは、確率状態と時間を区別した“完全市場”を仮定し、財を状態ごとに定義することで不確実性を扱います。消費者は効用を最大化し、企業は利潤を最大化するという行動原理が課されます。モデル内では競争均衡がパレート効率的であることが示され、厚生経済学の第1・第2定理の形式的証明が可能になりました。また、金融資産を“状態索引付き証券”として扱う考え方はオプション価格理論の先駆けとなりました。

コンベックス解析

コンベックス解析は、凸集合・凸関数の性質を扱う数学の一分野で、最適化や経済理論に不可欠です。ドブルーは需要集合や生産集合の凸性を利用し、均衡存在を示す鍵として用いました。凸集合の閉包や分離定理により、価格が限界効率性を表す影の値として導かれます。今日、機械学習やオペレーションズリサーチでも広く応用されています。

固定点定理

固定点定理は、ある写像を適用しても動かない点(固定点)が存在することを保証します。カカドゥーニ固定点定理やブラウアー固定点定理が代表例です。ドブルーは価格単体上の超過需要対応写像に固定点があることを示し、それを均衡価格に対応させました。経済以外にも、ゲーム理論やネットワーク科学など多方面で利用されます。

パレート効率性

パレート効率性とは、誰かをより良くしながら他の誰も悪くしない改善が不可能な状態を指します。一般均衡の理論では、完全競争市場の均衡がパレート効率的であることが下位構造として示されます。これにより、“見えざる手”の概念が形式的に裏付けられました。政策評価では、効率性と公平性のトレードオフを定量的に分析する指標となります。

ワルラス的価格調整

ワルラス的価格調整(タトヌマン)は、オークションのように価格が試行錯誤的に変化し、超過需要がゼロになるまで続く過程です。ドブルーの存在定理は静学的だが、動学的調整としてタトヌマンが研究され、安定性条件が議論されています。計算一般均衡モデル(CGE)では、このプロセスを数値的に模倣します。

不完備市場

不完備市場では、すべてのリスクに対応する証券が存在しないため、家計は完全に保険をかけられません。ドブルーの完全市場モデルは理想的なベンチマークとして、不完備性が導入されたときにどのように均衡が変わるかを分析する基盤となりました。今日のマクロ金融モデルでは、市場不完備が貯蓄行動や資産価格に与える影響が研究テーマです。

社会的厚生関数

社会的厚生関数は、社会全体の満足度を一つの指数にまとめる概念で、効率性と公平性を同時に評価できます。アローの不可能性定理などで有名ですが、ドブルーの枠組みはその前提となる選好集合の扱いを厳密にしました。政策シミュレーションで世代間の格差や福祉の効果を測定する際の重要なツールです。