2013年ノーベル経済学賞

受賞理由

資産価格の実証分析に関する功績

受賞者

ユージン・ファーマ

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

ラース・ハンセン
ラース・ハンセン

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

ロバート・シラー
ロバート・シラー

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

解説

みんなのおこづかいで買える株や債券は、毎日値段が変わります。明日の値段は当てるのがとても難しいけれど、5年後くらいの大まかな流れなら少しだけわかるかもしれないと科学者は考えました。ファーマさんは、ニュースが出るとすぐに値段が変わることを調べ、市場がとてもすばやく情報を取り入れていると示しました。ハンセンさんは、難しいデータを調べるための新しい計算方法を発明し、その方法で理論をテストしました。シラーさんは、長い期間で見ると値段が行き過ぎたり足りなかったりする「バブル」のような動きを発見しました。三人の研究は、貯金をする人や年金を運用する人がリスクを知る手助けになっています。例えば、むずかしい株選びよりも市場全体の「パック(インデックス)」に投資する方が安全だとわかりました。こうして、わたしたちが将来に備えてお金を管理する方法がより良くなったのです。

関連キーワード

効率的市場仮説

効率的市場仮説(EMH)は、すでに公表された情報は瞬時に価格に織り込まれるという考え方です。ファーマが1960年代に大量データで検証し、短期的なリターンの予測不能性を示したことで広く受け入れられました。EMHには弱形・半強形・強形という三つの情報レベルがあり、検定方法も自己相関検定やイベントスタディなどに分類されます。完全に効率的な市場では、裁定取引による超過利益は長期的にゼロに収束します。しかしバブルや行動バイアスを説明するために、EMHを部分的に修正する理論も数多く提案されています。今日の金融実務では、EMHは指数運用の理論的支柱として機能しつつ、その限界も活発に議論されています。

一般化モーメント法

一般化モーメント法(GMM)は、観測データが満たすべき理論的モーメント条件を最適化してパラメータを推定する統計手法です。ハンセンが1982年に提案し、従来の最尤法が適用しにくい場合でも漸近的に正確な推定が可能となりました。GMMは自己相関や条件付き異分散が存在しても有効で、資産価格やマクロモデルの検証で多用されます。過識別検定により、モデルがデータと整合しているかどうかを統計的に判断できる点も大きな利点です。現在では連続時間モデルやパネルデータ拡張版も開発され、経済学の汎用ツールとして定着しています。金融実務では、リスクプレミアム推定やストレステスト用パラメータの算定に頻繁に利用されています。

株式リターン予測可能性

株式リターン予測可能性とは、配当利回りやCAPEレシオなどの指標が将来の平均リターンを統計的に説明できる性質を指します。シラーは1980年代に長期回帰分析を用いて、この予測可能性が有意であることを示しました。予測可能性はリスクプレミアムの時間変動、投資家センチメント、マーケットフリクションなど複数の要因と結びついています。学術的には、市場効率性の境界条件や行動ファイナンス理論の検証の重要証拠となっています。実務面では、戦略的アセットアロケーションやダイナミックヘッジの情報入力として使われています。ただしモデル誤特定やサンプル外の安定性に注意が必要で、方法論の改良が続けられています。

資産価格バブル

資産価格バブルは、基礎的価値から大きく乖離して価格が急騰し、その後急落する現象を指します。シラーは行動バイアスや社会心理がバブル形成に影響することを示し、「irrational exuberance」という言葉を広めました。バブルの識別には、価格と配当の乖離、加速度的上昇パターン、レバレッジ拡大など複数の指標が利用されます。バブル崩壊は金融危機や実体経済の失速を伴うことが多く、政策担当者にとって重大なリスク要因です。エンピリカル研究は、バブル期の異常高リターンとその後の過度な負リターンが長期予測可能性の主要因の一つであることを示しています。近年は機械学習や高頻度データを使ってリアルタイムでバブル兆候を検出する試みも進んでいます。

Fama–French三因子モデル

Fama–French三因子モデルは、市場リスクに加えてサイズ(SMB)とバリュー(HML)の二因子を導入し、株式リターンのクロスセクションを説明します。ファーマとフレンチが1990年代初頭に提案し、従来のCAPMでは説明できなかった小型株・バリュー株の高リターンを整理しました。モデル推定にはポートフォリオ分割とFama–MacBeth回帰、あるいはGMMが使われます。その後の研究でモメンタム、収益性、投資などのファクターが追加され、拡張版の五因子・六因子モデルへ発展しました。資産運用業界では、ファクターETFやスマートベータ戦略の基盤として広く採用されています。ただしファクターリターンの持続性、測定誤差、取引コストを巡って活発な議論が続いています。

消費CAPM

消費CAPMは、代表的個人の消費の変動と資産リターンを結びつける一般均衡モデルです。理論上、リスクプレミアムは消費成長率との共分散で決まり、割引因子はm_{t+1}=β(C_{t+1}/C_t)^{-γ}で表されます。ハンセンのGMMにより、このモデルのパラメータ推定と過識別検定が可能になりました。実証的には標準形ではエクイティプレミアムを十分に説明できず、習慣形成や長期リスクを導入した拡張モデルが提案されています。それでも消費CAPMは金融とマクロを接続する基礎として重要です。政策評価や福祉分析でも同系の選好関数が広く使われています。

ランダムウォーク仮説

ランダムウォーク仮説は、連続する価格変化が独立同分布であるとする仮定で、市場効率性が成立する場合の最も単純なモデルです。ファーマは自己相関統計や分散比検定を用いて米国株式データがこの仮説と整合的であることを示しました。ランダムウォークであれば、過去の価格系列から有意な取引規則で超過リターンを得ることは不可能です。ただし徐々に証拠が蓄積するにつれ、季節性や短期リバーサルなど一部の逸脱が観測されることも明らかになっています。この仮説はテクニカル分析の有効性に対する標準的な反論の根拠となっています。現在は厳密な独立性ではなく、弱い自己相関を含む「ほぼランダムウォーク」モデルが主流となりつつあります。

ケース=シラー住宅価格指数

ケース=シラー住宅価格指数は、アメリカ主要都市の住宅売買価格を繰り返し売買法で計算する不動産指数です。シラーとケースが1980年代に開発し、ヘドニック調整よりも取引価格のクオリティを保てる点が特徴です。住宅市場のバブル測定やモーゲージ証券の評価、デリバティブ商品の基盤データとして広く利用されています。2000年代の米国住宅バブルとサブプライム危機を分析する際、この指数は価格過熱度を示す主要指標となりました。シラーは指数を用いた住宅価格先物の創設を提唱し、個人が不動産リスクをヘッジできる市場の可能性を示しました。現在も米国経済指標の一部として定期的に公表され、金融政策や投資判断に影響を与えています。