2021年ノーベル経済学賞(1)

受賞理由

労働経済学への実証的貢献

受賞者

デヴィッド・カード
デヴィッド・カード

カナダカナダ, アメリカ合衆国アメリカ合衆国

解説

お店の給料が上がったら仕事は減るのかを調べるために、カードさんは実際の街を比べる実験をしました。ニュージャージー州では最低賃金が上がり、となりのペンシルベニア州では変わりませんでした。この違いを利用して、ハンバーガー店の働き手の数を数えたのです。結果は「給料が上がっても人は減らない」でした。社会で起こった出来事を“自然実験”として活用した点が高く評価されました。

関連キーワード

自然実験

政策変更や地理的境界、突発的事件など、研究者が操作できない外部要因を利用して実験条件を再現する手法です。ランダム化実験に近い比較対象を提供するため、因果推論で強い説得力を持ちます。カードの最低賃金研究やマリエル難民研究が代表例です。観察データでも外生的変動を抽出できる点が実証経済学の発展を促しました。ただし、外生性の妥当性検証や干渉効果への配慮が不可欠です。

最低賃金

法律により決められた労働者の最低時給を指します。伝統的理論では賃金上昇は雇用を減少させると予測しますが、カードは実証的に影響が小さいことを示しました。企業の価格転嫁やモノプソニー的賃金設定が原因と考えられています。最低賃金政策は所得分配や貧困削減の手段として再評価されました。研究結果は各国の政策決定にも影響を与え続けています。

移民の労働市場効果

移民の流入が在住者の賃金や雇用に与える影響を測定する研究分野です。カードは1980年のマリエル難民を利用し、低技能労働者の賃金が下がらないことを示しました。後続研究は都市レベルや産業レベルで影響の異質性を検証しています。一部では移民が補完労働として機能し、ネイティブは技能要求の高い職へシフトするとの結果が得られました。政策設計には地域特性の考慮が重要であると示唆されます。

教育の収益率

追加的な教育年数が将来の賃金をどれだけ高めるかを示す概念です。能力バイアスが問題となるため、操作変数や自然実験が活用されます。カードとクルーガーは州ごとの学校資源を用いて限界増分を推定しました。多くの国で1年の教育追加は約7〜10%の賃金上昇をもたらすと報告されています。貧困層に対する教育投資効果はさらに大きいことが知られています。

差の差法

介入前後の変化を処置群と対照群で二重に差分化して効果を推定する準実験手法です。平行トレンド仮定の下で未観測バイアスを除去できます。カードの最低賃金研究は州境を利用した典型例です。最近ではイベントスタディや合成統制法と組み合わせた拡張が行われています。正確な推定には共変量バランスとクラスタ誤差への留意が必要です。

労働需要と労働供給

賃金と雇用量を決定する経済学の基本概念です。カードの実証結果は、伝統的な完全競争モデルよりも労働市場が硬直的であることを示唆します。企業が市場支配力を持つモノプソニーでは、賃金上昇が必ずしも雇用減を招きません。これにより最低賃金や課税政策の効果分析が再考されました。動学的補完性や非線形需要が研究の新たな焦点となっています。

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