2023年ノーベル経済学賞
受賞理由
労働市場における女性の成果の研究に関する功績
受賞者
アメリカ合衆国
解説
昔は男の人が外で働き、女の人は家で家事をするという決まりのように思われていました。でも本当は女の人も働きたいし、働く力もあります。ゴールディンさんは、古い新聞や国勢調査など、たくさんの資料を調べて、女の人が仕事をしてきた歴史を明らかにしました。その結果、仕事と家庭を両立しやすい環境や法律があると、もっと多くの女の人が働けることが分かりました。これは、女の人も男の人も好きな仕事を選べる社会をつくるヒントになります。
関連キーワード
ジェンダー賃金格差
ジェンダー賃金格差とは、男女の平均賃金が異なる現象であり、時間当たり賃金や年収で測定されます。格差は国、産業、職業階層によって大きく変化し、歴史的にも縮小と拡大を繰り返してきました。要因には教育水準、職種選択、昇進機会の不平等、出産・育児によるキャリア中断、差別的慣行などが複合的に作用します。ゴールディンは長期データを用いて、賃金体系が出来高制から月給制に移行する過程で差別部分が拡大したことを示しました。近年では賃金格差の多くが母親になった直後に生じることが確認され、柔軟な働き方や育児支援策が解決の鍵とされています。
労働参加率
労働参加率は、働く意思と能力を持つ人が労働市場にどれだけ参加しているかを示す指標です。女性の労働参加率は経済構造、教育機会、社会規範、育児支援政策などによって敏感に変動します。ゴールディンは米国の女性参加率が産業化で低下し、その後20世紀に持ち直すU字型軌道を描いたことを明らかにしました。この発見は、多くの国で同様のパターンが観測されることを示し、経済成長だけでは参加率は自動的に改善しないと警鐘を鳴らします。政策的には保育サービスの充実や柔軟な働き方が参加率向上の鍵と考えられています。
結婚バー
結婚バーとは、20世紀前半の米国などで導入された制度で、女性が結婚すると教師や事務職から退職させる規定を指します。景気変動時に男性の雇用を保護する目的があったとされ、1930年代の大恐慌期に最も広まりました。ゴールディンは州法と学校区の人事記録を突き合わせ、結婚バーが女性の熟練蓄積と生涯賃金を大幅に削減したことを定量的に示しました。第二次世界大戦後に法的には廃止されましたが、影響を受けた世代のキャリアは取り返しがつきませんでした。現代においても妊娠解雇や契約更新拒否など、同様の排除メカニズムが残存していると指摘されています。
母親ペナルティ
母親ペナルティとは、女性が第一子を出産した後に賃金や昇進の伸びが急激に鈍化する現象です。イベントスタディや固定効果モデルによって、ペナルティは出産直後に発生し、少なくとも10年以上持続することが確認されています。ゴールディンらの研究は、キャリア志向の高いMBA卒業生でも10年以内に約40%の収入差が生じると報告しました。原因には長時間労働を前提とした賃金スキーム、育児負担の不均衡、雇用者の昇進判断におけるバイアスが含まれます。父親の育児休業促進や柔軟勤務制度の導入がペナルティ緩和に有効だと示唆されています。
U字カーブ
U字カーブは、女性労働参加率の長期推移を示す形状で、産業化による低下とその後の上昇を一つの曲線で表現します。農業から工業への移行で家庭と職場が切り離され、女性の就業機会が限定されたことが下降局面の要因でした。20世紀の教育拡大、サービス化、家事の機械化が上昇局面を支えましたが、社会規範の変化速度がカーブの底の長さを決定しました。U字カーブは国際比較で再現され、経済発展段階ごとのジェンダー政策立案に活用されています。
経済史
経済史とは、歴史資料を分析して過去の経済活動や制度変化を理解し、その知見を現代問題に活かす学問です。ゴールディンは経済史的手法を用いて、統計に現れにくかった女性の労働や賃金を数値化しました。職業分類の再コーディングや家計簿・工場台帳の発掘によりデータ不足問題を克服し、因果推論に十分な情報を提供しました。このような定量経済史は、長期視点を必要とする年金制度や教育政策の評価にも応用されています。
ピルの普及
経口避妊薬の普及は、女性が出産時期をコントロールできるようになったことで教育とキャリア投資の行動を大きく変えました。ゴールディンは州ごとに異なるピル解禁年齢を利用し、早期アクセスが婚姻年齢を押し上げ、法学・経済学・医学といった高収入分野への進学を促したことを示しました。ピルは女性労働供給の伸びを加速させ、賃金格差縮小の一因となりました。開発途上国でのリプロダクティブ・ヘルス技術普及も同様の効果が期待され、政策研究が進められています。
コーホート分析
コーホート分析は同じ生年の集団を追って行動や成果を比較する手法で、世代ごとの期待や制度環境の違いを捉えられます。ゴールディンは女性が将来どれほど働くと想定していたかをコーホート別に測定し、期待の誤りが教育投資と賃金格差に長期影響を与えることを示しました。例えば1950年代生まれの女性はキャリア継続を過小評価し、専攻選択を狭めた結果、生涯所得で不利を被りました。コーホート分析は集計統計が変化を過小評価するタイムラグを明らかにし、政策の効果判断をより精緻にします。長期的社会保障や労働市場改革の設計にも応用される重要な分析枠組みです。