1931年ノーベル化学賞
受賞理由
化学高圧法の発明と開発
受賞者
ドイツ国
ドイツ国
解説
空気や水のようなガスや液体を、とても強い圧力でぎゅっと押しこむと、ふだん起こらない反応が起こることがあります。ボッシュさんとベルギウスさんは、この“高い圧力”を使ってアンモニアなどを大量につくる方法を考え出しました。アンモニアは畑の肥料のもとになるので、世界の食べ物づくりを助けました。二人の工夫で、工場はお鍋の中をしっかり閉じて安全に強い圧力をかけられるようになりました。そのおかげで、私たちは安くてたくさんの食料や化学製品を手に入れられるようになったのです。
関連キーワード
高圧化学
数百から数千気圧の条件下で分子間距離を縮め、反応平衡と速度を変化させる化学分野。圧力変化により溶解度や活性化エネルギーが変わるため、常圧では困難な合成が可能になる。ボッシュとベルギウスの業績は、その産業化の先駆けとなった。現在は超臨界流体反応や地球深部物質科学にも応用されている。圧力容器設計や安全管理技術と密接に結び付いている。
アンモニア合成
窒素と水素からNH3を生成する反応で、ハーバー・ボッシュ法が代表例。高温高圧と鉄系触媒を利用し、世界で年間1億トン以上が生産される。得られたアンモニアは硝酸、尿素、爆薬などの原料となる。食料生産を支える窒素肥料の供給源として不可欠である。近年は再生可能エネルギー水素を用いたグリーンアンモニアが注目されている。
ハーバー・ボッシュ法
フリッツ・ハーバーが反応条件を発見し、カール・ボッシュが工業化したアンモニア製造法。450–500°C、150–300気圧、鉄触媒の条件で窒素固定を行う。1913年にドイツ・ルートヴィッヒスハーフェンの工場で商業運転が開始された。アンモニアの大量供給により農業収量が増加し「空気からパンを作る」と呼ばれた。一方CO2排出の大きさから、低圧運転やグリーン水素導入が研究されている。
ベルギウス法
粉砕した石炭を重質油に分散し、約400°C・20–30MPaで水素化して液体燃料を得る高圧石炭液化技術。第一次世界大戦後のドイツで石油代替源として発展した。生成物は改質後ガソリンや軽油として利用され、自動車燃料に供給された。高圧装置とMoS2触媒の組み合わせが特徴である。未利用炭素資源やバイオマスとのハイブリッドプロセスも検討されている。
触媒
自らは変化せずに化学反応を速める物質。高圧条件下では活性相の相転移や拡散制御が重要となる。ハーバー・ボッシュ法ではα鉄表面が窒素解離の活性中心として働く。K2Oは電子供与でN≡N結合を弱め、Al2O3は構造安定化に寄与する。適切な触媒設計なしには高圧化学プロセスの成功はあり得ない。
圧力容器
内部が外部より高い圧力になる装置で、高圧化学の安全運用の要。ボッシュ流の多層シリンダーやクラムシェル構造が開発され、水素脆化や疲労破壊に対応した。設計には応力解析、材料選定、非破壊検査が不可欠である。原子炉や深海探査機にも技術が応用される。国際規格はASMEやENなどで厳格に定められている。
肥料革命
合成窒素肥料の普及により20世紀前半から農業収量が急拡大した社会変革。ハーバー・ボッシュ法によるアンモニア供給が直接の原動力となった。世界人口増加を支え、後のグリーン革命の基盤を築いた。一方、過剰施肥による水質汚濁や温室効果ガス排出が新たな課題となった。持続可能な肥料体系への転換が求められている。
グリーンアンモニア
再生可能エネルギー由来の水素と空気中の窒素から作る低炭素アンモニア。化石燃料改質によるCO2排出を削減できる。燃料電池や船舶燃料としての利用が検討され、エネルギーキャリアとして期待されている。低温低圧で稼働する新触媒や電解合成の研究が活発である。高圧化学の知見がプロセス設計に生かされている。