1949年ノーベル化学賞

受賞理由

化学熱力学への貢献、特に極低温における物性の研究

受賞者

ウイリアム・ジオーク

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

解説

氷を冷凍庫で冷やすとカチカチになるように、温度は物質の性質を大きく変えます。ジオークさんは、−200度よりもっと冷たい温度で物質がどうふるまうかを調べました。とても冷たい世界では、水も空気もほとんど動かなくなり、エネルギーの流れが止まりかけます。彼は特別な冷凍機を作り、磁石の力を使ってさらに温度を下げる工夫をしました。その結果、物質が持つ熱の量や規則の度合い(エントロピー)を正しく測れました。こうした研究は、宇宙やコンピューターを冷やす技術につながっています。

関連キーワード

化学熱力学

化学反応や物質の状態変化で起こるエネルギーと仕事、エントロピーの関係を扱う学問です。温度・圧力・体積などの巨視的変数と、内部エネルギー・自由エネルギーを結び付けます。平衡定数や相平衡図の計算に欠かせず、材料開発や工業プロセス設計の基礎となります。ジオークの低温データは、第三法則の検証と標準エントロピー値の確立を通じてこの分野を大きく前進させました。今日の計算化学や持続可能な化学プロセスにも不可欠です。

極低温

極低温とは、おおむね−150 ℃(123 K)以下の温度領域を指し、特に10 K未満では物質の量子現象が顕著になります。液体ヘリウムや断熱消磁冷却を用いて到達し、超伝導や超流動の研究で重要です。熱容量が小さく熱伝導も低下するため、測定装置には厳密な断熱が必要です。ジオークは0.25 Kまで温度を下げ、第三法則を実験的に探査しました。これが低温物理学と低温技術の黎明を促しました。

エントロピー

エントロピーは、系の乱雑さや利用できないエネルギー量を表す熱力学的状態量です。第二法則により孤立系のエントロピーは増大する方向に変化します。第三法則は、完全結晶のエントロピーが絶対零度でゼロに近づくと定義します。ジオークは極低温でのCp測定をもとにエントロピーを積分し、多くの物質で第三法則を支持しました。この定量的データは化学平衡計算や統計力学モデルの検証に用いられています。

第三法則

第三法則は、絶対零度において完全結晶のエントロピーが0に収束するという原理です。これにより、他の温度でのエントロピーを絶対値として定義できるようになります。実験的に検証するには、0 Kに極めて近い温度でCpを精密に測定する必要があります。ジオークの実験は0.05 Kまで到達し、第三法則の妥当性を決定的に示しました。この法則は低温標準温度スケールと物性表作成の理論的基盤になっています。

断熱消磁冷却

断熱消磁冷却は、パラ磁性塩を強磁場中で冷却し、その後磁場を徐々に減らす過程で温度を下げる方法です。磁場を弱める際、磁気モーメントの整列が乱れ、系が仕事を外部へ行わずエントロピーを一定に保とうとするため温度が低下します。ジオークはラジウム塩を使ってこの技術を実用化し、0.25 Kの世界を切り拓きました。現在は核スピン冷却や宇宙望遠鏡のセンサー冷却に応用されています。機械的な移動部分が少なく、振動が少ない点も精密測定に適します。

磁化熱効果

磁化熱効果は、磁場を変化させたときに物質の温度が変わる現象で、パラ磁性体や強磁性体で顕著です。磁化によってスピンが整列し、エントロピーが減少すると発熱が起こります。逆に断熱消磁時には温度が下がります。ジオークは熱量計と磁束計を組み合わせて、この効果を定量的に測定しました。データは高効率磁気冷凍サイクル開発の基礎になっています。

比熱容量

比熱容量は、物質1グラムまたは1モルを1 K温度上昇させるのに必要な熱量です。温度によるエネルギー蓄積の指標であり、フェーズトランジションや量子効果を敏感に反映します。極低温では比熱がT³や指数関数的に変化し、格子振動やスピン励起の情報を与えます。ジオークは精密な比熱測定により、第三法則の検証と物質固有のエネルギーレベル構造を明らかにしました。これらのデータは熱設計や安全評価に役立てられています。

酸素同位体分離

酸素には16O, 17O, 18Oなどの同位体が存在し、質量差によるわずかな化学物性の違いが観測されます。ジオークは18Oを大量生産し、分光学的にその振動数シフトを測定しました。同位体分離は安定トレーサー研究や医療診断、地球科学の年代測定で不可欠です。高純度18Oはロケット推進剤の性能評価にも使用されます。同位体研究は量子化学計算の検証と分子力場改善にも役立っています。