2000年ノーベル化学賞
受賞理由
導電性高分子の発見と開発
受賞者
アメリカ合衆国
アメリカ合衆国,
ニュージーランド
日本
解説
プラスチックはふつう電気を通さないと教わります。しかしヒーガーさんたちは、特別な方法で電気を流せるプラスチックを作りました。イメージは、ビーズのネックレスに空いた穴にビーズが次々と飛び込んで進むようすです。電気が通ると、曲げられる電線や光るシートなど新しい道具が作れます。私たちのテレビやスマホの画面がもっと薄く軽くなるかもしれません。だからこの発見は、未来のくらしをワクワクさせる大事な一歩なのです。
関連キーワード
導電性高分子
電気を通さないと思われていたプラスチックに、電子が移動できる経路を与えた材料群です。軽量・柔軟で成形しやすいという高分子本来の特長を保ちながら、金属並みの導電率を示します。ドーピングによりキャリア濃度を制御でき、半導体から金属的状態まで自由に調整可能です。透明電極や有機ELなど、従来の無機材料を置き換える用途が急速に拡大しています。環境負荷が低い水溶液プロセス製造やインクジェット印刷への適合性も大きな利点です。
ドーピング
高分子鎖から電子を抜く酸化(pドープ)または電子を入れる還元(nドープ)でキャリアを生成する工程です。ヨウ素、AsF₅、アルカリ金属などが典型的ドーパントとして使われます。キャリア濃度が増えるとバンドギャップが狭まり、電気伝導度が指数関数的に向上します。可逆的な電気化学ドーピングを行うと、材料をスイッチのようにON/OFF制御できます。この可逆性はエレクトロクロミックデバイスや蓄電用高分子の基礎となっています。
ポリアセチレン
アセチレン(CH≡CH)を重合して得られる一次元共役高分子で、cis型とtrans型の二つの結晶相が存在します。未ドープ状態では半導体ですが、ヨウ素や砒素フッ化物でドーピングすると10³ S cm⁻¹級の高導電率を示します。Peierls転移により自発的に開いたバンドギャップが、ドーピングで劇的に縮小する点が研究上の鍵となりました。ポラロン・ソリトン物理の実験検証にも用いられ、一種のテストベッド材料として長年重要視されています。現在は安全性や加工性の観点から他材料に置き換わりつつありますが、学術史的役割は大きいままです。
π共役系
単結合と二重結合が交互に並ぶことで、π電子が分子全体に広がる骨格構造です。この広がりが電子の自由度を高め、バンド形成を可能にします。高分子では鎖長の増大に伴いエネルギーバンドが連続化し、半導体のような振る舞いを示します。ドーピングでFermi準位近傍にキャリアが導入されると、金属的伝導が発現します。π共役は光吸収や発光、熱電変換など多彩な物性の源でもあります。
ポラロン
導電性高分子内でキャリア(電子または正孔)が周囲の格子歪みと結合して形成する準粒子です。局所的に結合長が変化するため、電子と格子の複合体として振る舞います。ポラロンはスピン1/2と電荷±eを持ち、ESRで観測されることが多いです。電子が移動すると歪みも後続して移動するため、有効質量が増えつつも比較的高い移動度を示します。高ドープ濃度では、ポラロンが二量化してソリトンやバイポラロンへ転化し、伝導機構が変化します。
ソリトン
一次元共役高分子における位相欠陥で、ポリアセチレンでは2重結合の並びがずれることで生じます。電荷とスピンの組合せが多様で、無電荷スピン1/2型や有電荷スピン0型などが理論予測されました。ソリトンは鎖上を自己保持しながら移動でき、散逸せずに情報やエネルギーを伝える特徴があります。光吸収帯の新たなピークや非線形光学応答の起源として注目されます。導電性と光機能の両面に影響するため、デバイス設計でも重要な概念です。
有機エレクトロニクス
炭素骨格を持つ半導体や導電性高分子を用いた電子デバイス分野の総称です。有機ELディスプレイ、フレキシブル太陽電池、有機トランジスタなどが代表的応用です。低温・低コスト・大面積製造が可能で、印刷技術と組み合わせることで従来のシリコン回路と差別化を図ります。基板を曲げたり折ったりしても動作を保つ柔軟性はウェアラブル機器と相性が良いです。近年は生体適合性や分解性を活かし、医療センシングや環境モニタリングへの展開も活発化しています。
電界発光
材料に電圧をかけたとき、電子と正孔が再結合して光を放つ現象です。有機ELでは導電性高分子が電極層として、π共役高分子が発光層として機能します。発光波長は分子設計で自在に調整でき、赤外から紫外までカバー可能です。従来の白熱灯より高効率・低発熱で、薄型・軽量ディスプレイを実現します。フレキシブル基板上に作製できるため、折り曲げ可能なテレビやロールアップ照明が実用化しつつあります。