2004年ノーベル化学賞

受賞理由

ユビキチンを介したタンパク質分解の発見

受賞者

アーロン・チカノーバー
アーロン・チカノーバー

イスラエルイスラエル

アブラム・ハーシュコ
アブラム・ハーシュコ

イスラエルイスラエル

アーウィン・ローズ
アーウィン・ローズ

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

解説

私たちの体の細胞の中には、役目を終えたタンパク質をこわして片づける仕組みがあります。これはちょうどゴミの日にシールを貼って出すように、いらなくなったタンパク質に「ユビキチン」という小さなシールを貼る方法です。このシールが貼られると、細胞の中の“ゴミ箱”であるプロテアソームが見つけて、タンパク質を小さなかけらに切り分けます。こうして細胞はきれいに保たれ、新しいタンパク質を作る場所もあきます。チカノーバーさん、ハーシュコさん、ローズさんは、このシール貼りの仕組みを世界で初めてはっきりさせました。だから私たちの体が健康に働ける理由の一つを教えてくれたのです。

関連キーワード

ユビキチン

ユビキチンは76アミノ酸からなる小型の球状タンパク質で、真核生物に広く保存されています。C末端グリシンが基質タンパク質のリジン残基とイソペプチド結合を形成しタグとして機能します。リジン48やリジン63など自分の内部リジンによって多様な鎖型を作り分け、分解シグナルやシグナル伝達を切り替えます。構造はβグレイββαβαフォールドを持ち高い熱安定性を示します。細胞質だけでなく核内やミトコンドリア関連膜でも働き、タンパク質品質管理の中心因子です。

プロテアソーム

プロテアソームは26S複合体として知られ、20Sコア粒子と19S調節粒子から構成されます。20Sはα₇β₇β₇α₇の中空樽型で、βサブユニットのN末Thrが触媒サイトを形成します。19Sはユビキチン鎖の認識、基質の脱ユビキチン化、ATP依存的展開を担当します。約30,000個が1細胞に存在し、ほぼ全ての短寿命タンパク質を9残基程度のペプチドへ切断します。免疫プロテアソームや20S単独型など多様なサブタイプが生理条件に応じて誘導されます。

E1酵素

E1はユビキチン活性化酵素で、ATPを使用してユビキチンのC末端をアデニレート化しチオエステルを形成します。哺乳類にはUBA1、UBA6など少数しかなく、経路のボトルネックとして機能します。E1阻害はユビキチンプールを枯渇させ細胞周期停止を引き起こすため、抗がん剤ターゲットとして注目されています。構造は2つのシステインドメインを持ち、スイングアーム機構でユビキチンをE2へ転移します。E1はまたSUMOやNEDD8など各種UBL専用の活性化酵素とも対比されます。

E2酵素

E2はユビキチン結合/伝達酵素で、E1から受け取ったユビキチンを保持しE3との複合体で基質へ転移します。哺乳類で約40種類存在し、鎖型特異性や基質場所を規定する要素となります。各E2は触媒システインを有し、構造的にはUBCフォールドを共有します。不要なE2活性は脱ユビキチン化酵素(DUB)によって制御されます。E2変異は先天性疾患やがん感受性に関連することが知られています。

E3リガーゼ

E3は基質選択の鍵で、RING型・HECT型・RBR型の三大ファミリーがあります。細胞内に600種類以上存在し、特定のモチーフやフォスホコードを認識して基質を決定します。多くのウイルスタンパク質やPROTAC分子はE3をハイジャックして目的タンパク質を分解させます。HECT型はチオエステル中間体を取り、RING型は単なる足場として作用します。E3の異常は自己免疫や発達障害、がん転移に直結する例が多数報告されています。

ポリユビキチン化

ポリユビキチン化はユビキチン同士がイソペプチド結合で連結した鎖を形成する現象で、鎖の長さと結合部位により機能が決まります。Lys48鎖は分解シグナル、Lys63鎖はDNA損傷応答やシグナル伝達に用いられます。最近ではメタ鎖や線状鎖(Met1連結)も発見され免疫調節に関与しています。鎖型編集はE2/E3組み合わせで制御され、DUBが切断して可逆性を持たせます。ポリユビキチンコードの解読は「第二の遺伝暗号」とも呼ばれています。

タンパク質分解

タンパク質分解は細胞が不要なタンパク質をアミノ酸や短ペプチドへ分解するプロセスで、エネルギー依存型(UPS)とリソソーム経路に大別されます。分解によってアミノ酸リサイクルが行われ、恒常性とストレス応答が保たれます。特定タンパク質の半減期は数分から数日まで広く、分解速度がその機能調節手段となります。異常が起こると凝集体形成や毒性ペプチド蓄積につながり、アルツハイマー病など神経変性疾患の原因になります。創薬では分解機構を操作して病原タンパク質を除去する戦略が注目されています。

ATP(アデノシン三リン酸)

ATPは細胞のエネルギー通貨で、リン酸結合の加水分解により自由エネルギーを放出します。UPSではユビキチン活性化(E1)とプロテアソームによる基質展開にATPが必須です。この点が従来のエネルギー非依存的酵素分解との大きな違いでした。ATP濃度低下はユビキチン化効率とプロテアソーム活性を同時に阻害し、ストレス応答を引き起こします。細胞は解糖系やミトコンドリア酸化的リン酸化でATPを絶えず再生しています。