2024年ノーベル化学賞(1)

受賞理由

コンピュータによるタンパク質設計手法の開発

受賞者

デイヴィッド・ベイカー
デイヴィッド・ベイカー

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

解説

私たちの体を作るタンパク質は、20種類のアミノ酸という“ビーズ”をつなげて折り紙のように折りたたんだものです。ベイカーさんはコンピュータを使って、まだ自然界に無い新しいタンパク質を設計する方法を考えました。これは、完成したレゴ模型の形を先に決めてから、どのブロックを何個使えばよいかをコンピュータが教えてくれるようなイメージです。こうして作ったタンパク質は汚れた水をきれいにしたり、病気を治す薬になったりします。難しい実験を減らし、地球にやさしいものづくりにも役立つ発明です。

関連キーワード

de novo設計

既存のタンパク質を改造するのではなく、望みの立体構造や機能から逆算してアミノ酸配列をゼロから計算する手法。エネルギー最小化と統計的パターンを組み合わせ、自然界に存在しない折りたたみパターンを創出できる。医薬品や産業酵素など応用範囲が広い。計算負荷が大きかったが、クラウドやGPU、AIの導入で大幅に高速化した。成功例が蓄積することで設計ルールが体系化されつつある。

Rosetta

ワシントン大学で開発されたタンパク質構造予測・設計ソフト。フラグメント再構成と確率的探索でフォールディング経路をサンプリングし、経験的エネルギー関数で評価する。モジュール化されたスクリプトにより酵素活性部位設計や抗体最適化など多目的に使用可能。オープンソースとして全世界の研究者が機能拡張に参加。クラウドボランティア計算 Rosetta@Home が膨大な計算資源を提供する。

エネルギー地形

タンパク質の立体構造ごとに自由エネルギーが定義される高次元空間。天然タンパク質は漏斗状の地形をもち、最小エネルギー点が固有構造となる。設計ではこの地形を人工的に作り、目的構造への深い井戸を形成させることが重要。粗いポテンシャルでは誤フォールドが生じるため、溶媒効果や電荷など精密な項を組み込む。AIは実験データを学習して地形評価をさらに精緻化している。

自己集合ナノケージ

複数の設計タンパク質サブユニットが決まった対称性で集合し、ナノサイズの中空構造を形成する。ワクチンの抗原提示やドラッグデリバリーのキャリアとして注目。設計では界面の疎水性パッキングと水素結合ネットワークを制御して高い集合特異性を実現。電子顕微鏡で原子分解能に迫る構造解析が可能となり、機能改変の指針が得られる。温度やpH応答で開閉するスマート材料への応用も進む。

人工酵素

自然界に存在しない化学反応を触媒するように計算設計されたタンパク質。反応機構を量子化学計算でモデル化し、活性中心の配置をロゼッタが最適化する。成功例として Diels–Alder 反応や芳香族脱フッ素化反応を促進する酵素が報告。触媒効率は改変サイクルを経て天然酵素に匹敵する値に到達しつつある。グリーンケミストリーへの応用が期待される。

ProteinMPNN

トランスフォーマーアーキテクチャを基盤とした配列生成モデルで、固定された骨格構造に最適なアミノ酸配列を数秒で提案する。従来のパッキング計算より桁違いに高速かつ高精度。大規模学習で得た統計パターンがエネルギー評価を補完し、実験的成功率を向上させた。生成多様性が高く、免疫原性の低減や溶解度向上など多目的最適化が容易。デザインワークフローのボトルネックを解消した革新的ツール。

Foldit

一般市民がゲーム感覚でタンパク質折りたたみ問題を解くオンラインプラットフォーム。プレイヤーの直感的操作が計算アルゴリズムでは探索しにくい構造解決に寄与する。デザインモードでは新規配列提案も可能で、実験的に機能する酵素が誕生した実績あり。科学教育と研究支援を同時に実現した市民科学の先駆例。ベイカー研究室が中心となり継続的に課題が提供されている。

ワクチン抗原デザイン

デザインタンパク質を用いて病原体の抗原決定基だけを最適配置し、強力かつ安全な免疫応答を引き出す技術。自己集合ナノケージ表面に複数コピーを提示することで B 細胞活性化を促進。SARS-CoV-2、RSウイルスなどで臨床試験中の候補が存在。計算設計により保存性エピトープを選択的に強調でき、変異株に対するブロードな防御も期待される。迅速応答ワクチンプラットフォームとして注目されている。

同年の他の受賞業績