1903年ノーベル生理学・医学賞

受賞理由

疾病の治療法への寄与、特に尋常性狼瘡への光線治療法によって、医学の新しい領域を開拓したこと

受賞者

ニールス・フィンセン
ニールス・フィンセン

デンマークデンマーク

解説

むかし、ニールス・フィンセンさんは「強い光」を病気の皮ふに当てると良くなることを発見しました。とくに、皮ふにできる難しい病気「尋常性狼瘡」を治すために特別なランプを作りました。ランプの光はばい菌を弱らせ、かさぶたが小さくなりました。これは今でいう紫外線ライトに近いものです。お薬だけでなく「光」でも体を助けられると教えてくれた大きな発見でした。だから彼はノーベル賞をもらいました。

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光線療法

光線療法とは、可視光や紫外線、赤外線などの電磁波を治療目的で照射する医療技術です。古代ギリシアのヘリオセラピーに端を発し、19世紀末にフィンセンによって科学的基盤が築かれました。紫外線は細菌やウイルスのDNAを損傷させ、殺菌作用を発揮します。同時に、温熱効果や血行促進により組織修復を助ける場合もあります。現代では新生児黄疸治療、乾癬や白斑のPUVA療法、低出力レーザー治療など多岐にわたります。放射線と違いイオン化作用が弱いため、適切な遮光と照射量管理で安全に使用できます。

尋常性狼瘡

尋常性狼瘡は皮膚結核の最も慢性的かつ破壊的な形態で、顔面や四肢に褐色の結節や潰瘍を形成します。病変はゆっくり拡大し、瘢痕とともに組織を破壊していくため、19世紀には社会的烙印を伴う病気でした。原因は結核菌であり、呼吸器結核とは異なり血行性またはリンパ行性に皮膚へ到達します。抗生物質がない時代には治療法が限られ、光線療法や外科的切除が主な選択肢でした。フィンセンの紫外線照射は菌量を減少させ、瘢痕化を抑える画期的成果を示しました。現在は多剤併用抗結核薬と外科的治療の併用で予後は大幅に改善しています。

紫外線

紫外線は波長10〜400ナノメートルの電磁波で、可視光よりエネルギーが高く、A・B・C帯に分類されます。UVCは地表に届かないものの殺菌力が最強で、人工光源で利用されます。UVBはビタミンD合成を助ける一方、日焼けやDNA損傷の原因となり、適度な暴露が重要です。UVAは波長が長く、皮膚のコラーゲンを破壊して光老化を引き起こしますが、PUVA療法では薬剤と組み合わせ治療に用いられます。フィンセンはUVB域主体の光を集光し、熱線を除去する工夫で治療効果を最大化しました。現代の医学・工業・環境科学では、殺菌灯、水処理、半導体製造など幅広く応用されています。

皮膚結核

皮膚結核は結核菌が皮膚に感染して生じる疾患群の総称で、尋常性狼瘡、結核性疣贅、瘻孔性結核など複数の臨床型があります。世界の結核罹患率が高かった19〜20世紀初頭には珍しくない病気でした。感染経路は自家感染以外に、外傷部位からの直接侵入やリンパ節からの波及も含まれます。病理組織では乾酪性壊死と類上皮細胞肉芽腫が特徴で、診断にZiehl-Neelsen染色や培養が用いられます。薬剤が存在しなかった時代、光線療法は数少ない非外科的治療として注目を浴びました。現在はリファンピシンを含む多剤併用療法が標準で、外科的デブリードマンやPDTが補助的に用いられます。

フィンセンランプ

フィンセンランプは炭素弧を光源とし、多重レンズとフィルターで紫外線を集光する医療機器です。装置は水冷システムを備え、赤外線を吸収して熱傷を防ぎました。直径5ミリ程度の照射スポットを作り、患部に高照度を供給できるのが特徴です。光束密度は約10ワット毎平方センチメートルに達し、当時としては比類のない強度でした。1900年代初頭にはヨーロッパと北米の病院に導入され、皮膚結核だけでなく乾癬や慢性潰瘍の治療にも応用されました。フィンセンランプの概念は後の水銀灯やエキシマランプの開発に影響を与え、光工学と臨床医学の結節点となりました。

太陽光療法

太陽光療法は自然光を利用した治療法で、古代エジプトやギリシアの時代から行われてきました。19世紀にはスイスの医師ローライトが結核患者をアルプスの高地で日光浴させ、良い成績を報告しました。フィンセンは自然光を人工光へと置き換え、波長を選択して効果を高めた点で革新的でした。UVBとUVAの比率、照射角度、曝露時間が治療効果を左右することが後に判明し、光生物学の研究が進展しました。現在でも季節性うつ病の光療法や骨粗鬆症予防のビタミンD合成促進に日光が役立ちます。適切な日光曝露は健康に寄与しますが、オゾン層破壊に伴う強い紫外線への対策も重要です。

免疫反応

免疫反応は体が病原体や異物を排除する仕組みで、自然免疫と獲得免疫に大別されます。光線療法は紫外線によるDNA損傷で細菌を直接殺すだけでなく、局所のサイトカイン放出を誘導してマクロファージや樹状細胞を活性化します。これにより抗原提示が促進され、T細胞反応が増強される二次的効果が得られます。また、低レベル光照射がミトコンドリアのシトクロムCオキシダーゼを刺激し、ATP産生を増加させることで組織修復を助けるという説もあります。したがって、光は「外科的」殺菌と「生理的」免疫調整の両面で働くと考えられます。フィンセンの時代には詳細不明でしたが、今日の研究がその仮説を裏付けています。

皮膚医学

皮膚医学は皮膚・毛髪・爪・粘膜を対象とする医学分野で、診断学的には視診・拡大鏡検査・ダーモスコピーが重要です。19世紀末までは外科の一分野とみなされていましたが、光線療法や病理組織学の進歩で独立分野として確立しました。フィンセンの功績は皮膚疾患を物理エネルギーで治療できることを示し、治療学の幅を広げました。現代の皮膚医学は分子生物学、免疫学、レーザー工学と結びつき、癌からアレルギーまで多彩な病態を扱います。エビデンスに基づくガイドライン制定が進み、QOL向上を重視する患者中心医療へと発展しています。皮膚は体表最大の臓器であり、全身疾患の窓口としての役割も担います。