1913年ノーベル生理学・医学賞
受賞理由
アナフィラキシー(急性過敏反応)の機構と危険性を明らかにした研究
受賞者
フランス
解説
私たちの体には、ばい菌やウイルスを追い出す「免疫」という仕組みがあります。でも、時々免疫が強く反応しすぎて、かえって体が危なくなることがあります。リシェは犬にタンパク質を2回注射すると、2回目に激しいショックが起こることを発見しました。彼はこの怖い反応を「アナフィラキシー」と名付け、人や動物に起こり得る重大なアレルギー反応だと示しました。これにより、人を守るための治療法や注意点を考えるきっかけが生まれました。
関連キーワード
アナフィラキシー
特定の抗原に再曝露された際、数分から数時間以内に起こる全身性の即時型過敏反応。血圧低下、気道浮腫、蕁麻疹、消化器症状などが急速に進行し、治療が遅れると致死的となる。IgE依存性が典型だが、補体や直接肥満細胞活性化による非IgE型も存在する。治療の第一選択は筋注アドレナリンであり、気道確保と輸液が並行して行われる。食品、薬剤、ハチ毒などが主要誘因とされ、近年は免疫療法や生物学的製剤による誘発例も報告される。
IgE抗体
免疫グロブリンの一種で、肥満細胞や好塩基球表面の高親和性FcεRI受容体に結合する。抗原架橋によって細胞内シグナルが発生し、ヒスタミンやサイトカインが放出される。血中濃度は他のクラスより低いがアレルギー疾患の重症度と相関する。1966年にIshizaka夫妻により同定され、アナフィラキシー機序解明の転機となった。現在は抗IgE抗体薬オマリズマブが喘息や蕁麻疹治療に用いられている。
ヒスタミン
アミノ酸ヒスチジンから生成される生体アミンで、肥満細胞や好塩基球の顆粒内に高濃度で存在する。H1受容体を介して血管拡張や血管透過性亢進、平滑筋収縮を引き起こし、アナフィラキシーの主要症状を形成する。1927年にデールらが薬理作用を報告し、抗ヒスタミン薬の開発につながった。現在は4種のヒスタミン受容体が知られ、胃酸分泌や中枢神経調節にも関与する。臨床では血中トリプターゼと共にヒスタミン代謝物測定が診断補助に用いられる。
即時型過敏反応
Gell & Coombs分類のⅠ型に該当し、抗原結合後数分以内に起こる。肥満細胞由来メディエーター放出とTh2サイトカインが中心で、アナフィラキシー、蕁麻疹、アレルギー性鼻炎などを含む。感作段階ではIL-4/IL-13依存的にIgEクラススイッチが誘導される。発症段階ではヒスタミン、ロイコトリエン、プロスタグランジンD2が即時症状を、好酸球浸潤が遅発相症状を担う。近年、遺伝的背景(FLG変異やHLA型)と環境因子(微生物多様性低下)の相互作用が注目されている。
肥満細胞
骨髄由来の免疫細胞で、組織に常在し大量の顆粒を持つ。IgE架橋や補体断片、機械刺激などによって脱顆粒が誘導され、ヒスタミンやトリプターゼを放出する。CD117(c-kit)陽性で、癌薬剤イマチニブによる機能制御が研究されている。好塩基球と異なり長寿命で組織修復にも関与するが、アナフィラキシーでは過剰活性化が致命的となる。全身性肥満細胞症ではクローナル増殖によりアナフィラキシーのリスクが高まる。
アレルギー性ショック
アナフィラキシーの古い呼称で、急激な血管拡張と血漿漏出により循環血液量が不足するショック状態を指す。皮膚症状が先行しない“ハイリスク型”も存在し、診断が遅れる要因となる。WHOガイドラインでは収縮期血圧90mmHg未満または年齢別基準を重視する。治療はアドレナリンが最優先で、β遮断薬内服患者では用量増加やバソプレシン補助が検討される。輸液抵抗性の場合は経静脈投与アドレナリン持続やノルアドレナリン併用が必要となる。
脱感作
微量の抗原を段階的に増量しながら投与し、肥満細胞の反応性を一過性に低下させる手技。ペニシリンアレルギー患者の必須治療や、特定の抗がん剤投与のリスク低減に応用される。機序としてはFcεRI内部化やシグナル分子のダウンレギュレーションが考えられる。リシェの“微量抗原でもショック”という観察とは逆方向に免疫応答を操作する点が興味深い。成功後も薬剤継続が必要で、中断すると感作状態が再発する。