1932年ノーベル生理学・医学賞
受賞理由
神経細胞の機能に関する発見
受賞者
イギリス
イギリス
解説
わたしたちの体には「神経」という細い糸のような道がめぐっていて、そこを通って「電気の手紙」が送られます。シェリントンさんとエイドリアンさんは、その手紙のやりとりがどんなしくみで行われるのかを調べました。シェリントンさんは、神経と神経のあいだには小さなすき間があって、そこで信号が飛びわたることを見つけました。エイドリアンさんは、細い神経1本だけから流れる小さな電気を記録し、信号がチカチカ光るように「パッ、パッ」と出ることを確かめました。この研究のおかげで、私たちが手を引っこめたり、目で見たりする速い反応のひみつがわかったのです。
関連キーワード
ニューロン
ニューロンは情報を電気信号で伝える神経系の基本単位で、樹状突起・細胞体・軸索からなる。活動電位を発生し、シナプスを介して他のニューロンや筋肉に情報を送る。シェリントンとエイドリアンの研究は、ニューロンが独立した細胞であるという『ニューロンドクトリン』の実証を後押しした。今日では約860億個のヒト脳ニューロンが複雑なネットワークを形成すると推定され、記憶・学習・情動などの諸機能を担う。ニューロンの機能不全はアルツハイマー病やパーキンソン病など多くの神経疾患に関連する。
シナプス
シナプスはニューロン同士、あるいはニューロンと筋細胞の接点で、情報が化学物質(神経伝達物質)や電気的カップリングを介して伝わる場所。シェリントンが命名し、その存在を示唆した。化学シナプスではシナプス前終末から放出された伝達物質が受容体に結合し、興奮性または抑制性のシナプス後電位を生じる。シナプスの強度は活動に応じて変化し(可塑性)、学習・記憶の細胞メカニズムと考えられる。シナプス異常はてんかん、自閉スペクトラム症、統合失調症などの病態と関連が深い。
活動電位
活動電位は軸索膜を伝わる急速な電位変化で、情報を遠くまで効率よく送る。エイドリアンは単一神経線維でこの現象を直接計測し、振幅が一定である『全か無かの法則』を確認した。活動電位はNa+およびK+チャネルの時間依存的開閉によって生成され、速度は軸索径や髄鞘の有無で変わる。頻度とパターンが刺激強度や情報内容を符号化する。活動電位の計測技術は心電図や脳波、さらにはブレイン・マシン・インターフェースへと発展している。
反射弧
反射弧は感覚受容器、感覚ニューロン、介在ニューロン、運動ニューロン、効果器(筋)の一連の経路で、素早い自動反応をつくる最小回路。シェリントンは脊髄反射の研究から、このアーク内で興奮と抑制が統合されることを示した。伸筋と屈筋の相反抑制など、基本的な運動協調の原理も反射弧の中で説明できる。後の研究で上位中枢からの修飾や可塑性が明らかになり、姿勢制御や歩行パターン生成の理解に発展した。リハビリテーション医学では反射弧の再編成が神経損傷後の機能回復に重要とされる。
神経インパルス伝導速度
神経インパルス伝導速度は活動電位が軸索を進む速さを示し、感覚や運動の反応時間を決定する重要な指標。シェリントンとエイドリアンの時代にはカエル神経で数10~数100m/sが測定され、興奮伝導にミエリン鞘が寄与することが示唆された。その後の計測技術の進歩で、末梢神経伝導速度は臨床診断(末梢神経障害、多発性硬化症など)に応用されるようになった。温度・軸索径・病理変化が速度に影響するため、測定値は神経の健康状態を反映するバイオマーカーとなる。近年は高速伝導の分子機構(ノード・オブ・ランビエのNa+チャネル密集など)や進化的意義が研究されている。