1954年ノーベル生理学・医学賞

受賞理由

種々の組織培地におけるポリオウイルスの生育能の発見

受賞者

ジョン・フランクリン・エンダース

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

トーマス・ハックル・ウェーラー

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

フレデリック・チャップマン・ロビンス
フレデリック・チャップマン・ロビンス

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

解説

ポリオウイルスは、小児まひという病気をおこすとても小さな生き物(ウイルス)です。昔はウイルスを調べるためにサルなどの動物に感染させなければなりませんでした。エンダースたちは、人やサルの細胞をお皿の上で育て、その中でポリオウイルスが増えることを見つけました。これは植物を畑ではなく植木鉢で育てられるようになったことと似ています。この方法のおかげで、ワクチンをたくさん安全につくることができ、世界中の子どもたちを守る大きな一歩となりました。

関連キーワード

ポリオ(小児麻痺)

ポリオはポリオウイルスによる急性ウイルス感染症で、主に5歳以下の子どもにみられます。ウイルスが脊髄の運動ニューロンを破壊すると、腕や脚に永久的な麻痺が残ります。20世紀前半には夏季に大流行を繰り返し、人工呼吸器「鉄の肺」が象徴的治療法となりました。ワクチン導入後、先進国ではほぼ根絶されましたが、接種率の低い地域では依然として発生が続きます。WHOは1998年から地球規模の根絶計画を推進しています。

組織培養

組織培養は動物やヒトから得た細胞を試験管やシャーレ内で人工的に増やす技術です。培地に栄養や成長因子を加え、温度・pH・CO₂濃度を管理することで細胞は体外でも生き続けます。この方法により病原体の増殖、薬剤毒性試験、遺伝子機能解析などが動物を使わずに行えます。エンダースらは複数種の細胞でウイルス増殖が可能なことを示し応用範囲を拡大しました。現在、組織培養はワクチン製造から再生医療まで生命科学の中核技術となっています。

ポリオウイルス

ポリオウイルスはピコルナウイルス科エンテロウイルス属に属する一本鎖RNAウイルスです。直径約30ナノメートルと小さく、耐酸性を持つため消化管を通過して増殖します。3つの血清型(タイプ1〜3)があり、交差免疫が成立しないためワクチンには各型を含める必要があります。ヒトのみを自然宿主とし、感染は主に経口・経糞口経路で起こります。エンダースらの研究により非神経系細胞でも複製できることが明らかになりました。

不活化ワクチン

不活化ワクチンはホルムアルデヒドなどで感染力を失わせた病原体を利用します。体内で増殖しないため安全性が高い一方、十分な免疫を得るには複数回接種が必要な場合があります。ソークは組織培養で大量に増やしたポリオウイルスを不活化し、1955年に有効性を示しました。現在の四種混合ワクチンにも不活化ポリオ成分が含まれています。精製技術の向上で副反応は大幅に減少しました。

細胞障害性効果

細胞障害性効果(CPE)はウイルス感染により細胞が丸くなる、融合する、破裂するといった形態学的変化を指します。顕微鏡で観察できるためウイルス増殖の迅速な指標となります。エンダースらはCPEを定量しウイルス力価を測定する方法を確立しました。CPEのパターンはウイルス種や細胞株で異なり、診断や薬剤スクリーニングに応用されます。プラークアッセイなどCPEを利用した古典的手法は今もウイルス学の基本です。

ヘラ細胞

HeLa細胞は1951年に子宮頸がん患者ヘンリエッタ・ラックスの腫瘍から樹立された不死化ヒト細胞株です。培養が容易で増殖が速く、多くのウイルスを支持するためウイルス学研究の標準細胞として利用されています。エンダースらの組織培養概念がHeLa細胞の普及を後押ししました。研究材料として貴重である一方、倫理や同意を巡る議論の契機ともなりました。現在もゲノム解析やドラッグスクリーニングに欠かせないモデルです。

ウイルス学

ウイルス学はウイルスの構造、増殖、病原性、免疫応答などを研究する学問分野です。濾過性病原体の発見から始まり、電子顕微鏡や分子生物学の発展で急速に進歩しました。エンダースらの組織培養技術は、動物実験中心だったウイルス学を細胞実験中心へ大きく転換させました。現在、ウイルス学は感染症対策だけでなく遺伝子治療やナノテクノロジーにも応用されています。COVID-19パンデミックでその社会的意義が再認識されました。

中和抗体

中和抗体はウイルス表面に結合して細胞への侵入を防ぐ抗体で、ワクチン有効性の主要指標です。エンダースらは組織培養で増やしたポリオウイルスを用いて中和試験を確立し、ヒト血清中の免疫レベルを定量しました。中和抗体はHIVやインフルエンザ、SARS-CoV-2など多くのワクチン開発で重要な役割を果たしています。モノクローナル中和抗体を治療薬として投与する戦略も臨床応用されています。精密測定技術の進歩で抗体の質や持続期間の解析が可能になりました。