1958年ノーベル生理学・医学賞(2)
受賞理由
遺伝子組換えおよび細菌の遺伝物質に関する発見
受賞者
アメリカ合衆国
解説
細菌は目に見えないほど小さな生き物ですが、食べたり増えたりする力を持っています。ジョシュア・レダーバーグは、大腸菌どうしが「情報を交換する」ことを発見しました。これは、片方の菌が持つよい性質をもう片方に渡す、“細菌の結婚”のようなものです。そのおかげで細菌は薬に強くなったり、新しい能力を手に入れたりします。この仕組みを知ることで、私たちは薬の効き目を守る工夫や新しい治療法を考えられるようになりました。
関連キーワード
遺伝子組換え
遺伝子組換えはDNA断片が異なる個体間で交換され、新しい遺伝情報の組み合わせが生まれる現象です。細菌では接合、トランスダクション、形質転換など複数の経路で起こります。レダーバーグの発見は、細菌でも有性生殖に似た組換えが可能であることを示しました。組換えは多様性を生み、環境変化への適応を促します。医療現場では、耐性遺伝子が組換えで広がることが大きな問題となっています。
接合
接合はドナー細菌からレシピエント細菌へDNAが直接移動する過程です。Fプラスミドにコードされた性線毛が2細胞を接触させ、DNA移送を開始します。レダーバーグは接合が染色体遺伝子の大規模な転送を引き起こすことを示しました。接合は大腸菌だけでなく多くのグラム陰性菌、グラム陽性菌でも観察されます。バイオテクノロジーでは接合を利用して巨大プラスミドを移植したり、バイオリメディエーション菌株を構築します。
Fプラスミド
Fプラスミド(F因子)は接合能を与える可動性プラスミドです。自身を複製しながら一本鎖DNAとしてドナーからレシピエントに送られます。染色体に挿入されるとHfr株となり、染色体遺伝子を連続的に転送します。F因子には転位酵素、pilus構築遺伝子、oriTなどの要素が含まれます。分子クローニングや組換えワクチン設計での大型ベクター開発に影響を与えました。
Hfr株
Hfr株(High frequency recombination strain)は、F因子が染色体に組み込まれた大腸菌ドナー株です。接合時に染色体遺伝子が高頻度で受容菌に移るため遺伝地図作製に利用されます。遺伝子の転入順序と時間から染色体上の位置が測定できます。複数のHfr株を使うことで環状染色体全体の配列が推定されました。Hfr株は組換え育種や合成生物学のプラットフォームとしても注目されています。
大腸菌
大腸菌は腸内に棲むグラム陰性細菌で、モデル生物として広く利用されています。成長が速く、遺伝子操作が容易で、研究室での扱いも簡単です。レダーバーグはK-12株を用いて遺伝子組換えを解析しました。E. coliは分子クローニング、タンパク質大量発現、バイオ燃料合成などの基盤微生物です。安全面でも長く評価され、工業的規模の発酵に使用されています。
トランスダクション
トランスダクションはバクテリオファージが宿主細菌のDNAを別の細菌へ運ぶ現象です。一般化トランスダクションではランダムな宿主DNAが梱包され、特定遺伝子が水平移動します。レダーバーグはZinderと共同でサルモネラを使い、この仕組みを初めて報告しました。トランスダクションは病原性関連遺伝子の拡散に関与し、公衆衛生に大きな影響を与えます。ファージ療法やDNAライブラリー構築にも応用される重要なツールです。