1972年ノーベル生理学・医学賞

受賞理由

抗体の化学構造に関する発見

受賞者

ジェラルド・モーリス・エデルマン
ジェラルド・モーリス・エデルマン

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

ロドニー・ロバート・ポーター
ロドニー・ロバート・ポーター

イギリスイギリス

解説

私たちの体には、ばい菌やウイルスから守ってくれる「抗体」という小さなたんぱく質があります。エデルマンさんとポーターさんは、この抗体がどんな形をしているのかを調べました。まるでレゴブロックを分けて観察するように、抗体を細かく切り分けて部品を探したのです。すると、抗体はY字の形をしていて、二本の腕で敵にぴったりくっつけることが分かりました。この発見のおかげで、病気を見つけたり治したりする新しい薬や検査キットが生まれました。

関連キーワード

抗体

免疫系が産生するY字型のタンパク質分子で、病原体や毒素などの抗原に特異的に結合して中和・除去に関与します。可変領域が抗原を認識し、定常領域が補体活性化や受容体結合を担います。医薬品としてのモノクローナル抗体や検査用試薬の基盤技術につながりました。エデルマンとポーターの研究までは完全な化学構造が不明でしたが、彼らの解析によって分子全体の組成と結合様式が判明しました。これは免疫学を分子レベルへと押し上げた画期的成果です。

重鎖

抗体を構成する約50 kDaのポリペプチドで、種類によってγ、μ、α、δ、εのクラスに分かれます。二本の重鎖がジスルフィド結合で中央を形成し、クラス特異的な生物学的機能を担います。定常領域には補体結合やFc受容体結合部位が含まれ、免疫応答のスイッチとして働きます。エデルマンは重鎖の質量と一次構造の大部分を解読しました。これにより抗体クラス転換の分子メカニズム研究が加速しました。

軽鎖

約25 kDaのポリペプチドで、κ鎖とλ鎖の2種類があります。各抗体には二本の同一軽鎖が存在し、重鎖とともに抗原結合部位を形成します。軽鎖の可変領域は多様な配列をとり、抗原特異性の重要な決定要素です。ポーターは軽鎖を還元的に分離し、初めて完全なアミノ酸配列を決定しました。この成果はB細胞の組換え遺伝子研究の土台となりました。

ジスルフィド結合

システイン残基間に形成される共有結合で、抗体の四つのポリペプチド鎖を安定に連結します。内在性のジスルフィドは立体構造を固定化し、可変領域の立体的配置を保ちます。還元剤によって切断すると鎖が分離し、構造解析や機能ドメインの同定が容易になります。エデルマンとポーターはジスルフィド結合の数と配置を詳細にマッピングしました。この情報は後の再組換え抗体設計に不可欠でした。

パパイン消化

パパイン酵素でIgGを限定的に切断する操作で、二つのFab断片と一つのFc断片を生成します。ポーターはこの方法を用いて抗原結合部位と効果発現部位を実験的に分離しました。Fabは抗原特異性を保持し、Fcは結晶化しやすい性質を示しました。この区分は抗体機能ドメインの概念を確立し、治療用FabやFc融合タンパクの開発へつながりました。現在でも抗体工学で頻繁に用いられる基本的プロトコルです。

可変領域

抗体分子の先端に位置し、アミノ酸配列が高度に多様な領域です。ここが抗原表面と鍵と鍵穴のように対応し、特異性を決定します。エデルマンとポーターの配列解析により、可変領域に高頻度の置換が集中することが示され、後に相補性決定領域(CDR)概念が提唱されました。この知見は体細胞突然変異やV(D)J再構成の理解へ発展しました。モノクローナル抗体の親和性成熟でも中心的役割を果たします。

定常領域

抗体のクラス共有部位で、重鎖ではCH1~CH3(またはCH4)ドメイン、軽鎖ではCLドメインから成ります。構造がほぼ同じで、補体活性化やFc受容体結合などエフェクター機能を担当します。パパイン消化で得たFc断片により、その機能が独立していることが証明されました。抗体クラスごとの生物学的性質は定常領域の差異で説明できます。バイオ医薬では定常領域改変により半減期延長や免疫活性調整が図られます。

一次構造解析

タンパク質のアミノ酸配列を決定する作業で、Edman分解や質量分析が用いられます。エデルマンとポーターはペプチド地図と部分配列の重ね合わせにより、世界で初めて大型免疫タンパクの全配列をほぼ決定しました。これにより、抗体分子のドメイン構造と変異ホットスポットが可視化されました。一次構造は立体構造予測や機能部位同定の出発点となります。現在では高速質量分析により数時間で解析可能ですが、当時は数年を要する難事業でした。