1976年ノーベル生理学・医学賞
受賞理由
感染症の起源および伝播の新たな機構に関する発見
受賞者
アメリカ合衆国
アメリカ合衆国
解説
わたしたちの体に入ってくるばい菌やウイルスは、病気をおこす小さな敵です。ブランバーグ博士は血液を調べる実験で、B型肝炎ウイルスという敵を見つけました。ガジュセック博士は、森の奥に住む人たちの間で広がるふしぎな脳の病気が、うつる病気だと証明しました。二人は「どうやって病気が生まれ、ほかの人にうつるのか」を調べたのです。このおかげで、ワクチンや安全な注射のやり方が考え出され、多くの命が守られました。病気の正体を知ることは、みんなを守る大切な鍵なのです。
関連キーワード
B型肝炎ウイルス
DNAウイルスの一種で、主に血液や体液を介して感染し、急性肝炎から慢性肝炎、さらには肝硬変・肝臓がんへと進行することがある。ブランバーグによるHBsAgの発見がウイルス同定の突破口となった。現在は遺伝子組換えワクチンが広く使用され、母子感染の予防にも成功している。それでも世界で推定2億人以上が慢性感染者として残存し、公衆衛生上の課題は続いている。抗ウイルス薬の開発と公平なワクチン接種が今後の鍵となる。
クールー病
パプアニューギニア・フォレ族にみられた致死性の神経変性疾患で、運動失調と情動失禁が特徴的である。ガジュセックが発症者の脳組織を霊長類へ接種し、長い潜伏期間の後に同一症状を再現したことで感染症であると証明された。病原体は後にプリオンタンパク質と同定され、クロイツフェルト・ヤコブ病など他の伝達性海綿状脳症の理解へつながった。儀礼的カニバリズムが主要な感染経路であることが示され、その慣習廃止により発症数は激減した。長期潜伏感染の概念を確立した歴史的症例として医学教科書に掲載されている。
血清学
血液中の抗体や抗原を検出して感染症や免疫状態を診断する学問と技術の総称である。ブランバーグは沈降反応や放射免疫測定法を駆使し、新規ウイルス抗原の同定に成功した。輸血の安全性確保やスクリーニング検査の標準化に貢献し、今日のELISAや化学発光法へと発展した。さらに抗体価の経時変化を追跡することで、ワクチン効果や集団免疫レベルを評価できる。分子生物学的手法が台頭する現在でも、血清学は感染症疫学の中核を担い続けている。
スローウイルス感染症
発症までに数年から数十年の長い潜伏期間をもち、進行性で致死的な病態を示す感染症群を指す。クールーや亜急性硬化性全脳炎、動物のスクレイピーなどが代表例である。ガジュセックの研究は、こうした疾患が外因性病原体によって起こりうることを実験的に証明し、免疫寛容や神経組織選択性といった新たな概念を提示した。後にプリオン病が分類に加わり、ウイルスに限らない“異常タンパク質病原体”の存在が認識された。慢性炎症や神経変性メカニズムの研究モデルとして、現在も基礎・臨床研究で重要な位置を占める。
水平感染
親子間の垂直感染ではなく、同世代または異なる個体間で行われる病原体の伝播を指す。輸血、性的接触、医療器具の再使用などがB型肝炎ウイルスの主要な水平感染経路として同定された。クールー病では儀礼的カニバリズムが特殊な水平感染経路となっていた。感染経路の解明は、公衆衛生政策や教育キャンペーンを策定する上で不可欠である。また水平感染の遮断は、垂直感染対策(母子感染予防)と並び、感染症制御の二大柱と位置づけられる。
ワクチン開発
病原体の構成要素や弱毒化株を利用し、免疫系に“予行演習”をさせることで発症を防ぐ技術。HBsAgの同定は、血漿由来ワクチン、そして組換えDNAワクチンへの道を切り開き、世界保健機関(WHO)が主導する新生児定期接種プログラムの礎となった。ワクチンの大量生産と低コスト化は、肝臓がん発症率の地域格差を縮小させつつある。クールー病の場合、病原体がプリオンであるためワクチン戦略は現時点で存在しないが、異常タンパク質病原体に対する免疫学的介入法の研究が進行中である。今後も安全性と有効性を担保しつつ、新興・再興感染症に迅速に対応できるプラットフォーム技術が求められる。