1980年ノーベル生理学・医学賞

受賞理由

細胞表面において免疫反応を調節する、遺伝的に決定された構造に関する発見

受賞者

バルフ・ベナセラフ
バルフ・ベナセラフ

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

ジャン・ドーセ
ジャン・ドーセ

フランスフランス

ジョージ・スネル

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

解説

私たちの体の細胞には、名札のような小さなたんぱく質がくっついています。この名札は遺伝子できまり、人それぞれ模様がちがいます。ベナセラフさん、ドーセさん、スネルさんは、この名札が免疫の警備員にとってとても大事だと見つけました。警備員=白血球は名札を確認し、仲間かどうかを判断します。もし名札がちがえば、ばい菌だと勘違いして攻撃します。このしくみがわかったおかげで、臓器移植のときに名札を合わせる検査ができるようになりました。病気と戦う薬を作るヒントにもなっています。

関連キーワード

主要組織適合複合体

哺乳類の第6染色体(ヒト)や第17染色体(マウス)などに位置する遺伝子群で、自己と非自己の識別に不可欠なたんぱく質をコードする。クラスI、クラスII、クラスIII領域に大別され、特にクラスIとIIは抗原提示分子として働く。極めて多型であり、何百ものアレルが記載されている。移植拒絶、自己免疫、感染防御、がん免疫に深く関与する。比較ゲノム学では、MHCの多様性が病原体圧によるバランス選択を受けてきた証拠が示されている。ワクチン設計や免疫原性予測においても中心的な標的となる。

HLA抗原

Human Leukocyte Antigenの略で、ヒトMHC分子を指す。最初は白血球凝集試験で同定され、現在は分子遺伝学的に高精度タイピングが行われる。HLA-A,B,CはクラスI、HLA-DR, DP, DQはクラスIIに属し、移植医療ではドナーとレシピエントのアレル一致が拒絶反応低減に直結する。自己免疫疾患の感受性や薬剤アレルギーにも強い関連があり、例としてHLA-B*57:01とアバカビル過敏症が有名である。がんや感染症ワクチンのペプチド選択にもHLA制限性が決定的役割を果たす。

抗原提示

細胞内または取り込んだ外来由来のタンパク質断片(ペプチド)をMHC分子に結合させ、T細胞に提示するプロセス。クラスI経路ではプロテアソーム分解後にTAP輸送体がペプチドを小胞体へ搬入し、クラスII経路ではエンドソームで外因性抗原が分解されて結合する。提示されたペプチド-MHC複合体をT細胞受容体が認識することで、免疫応答の方向性が決定する。がん細胞が免疫監視を逃れる際には、この経路の欠損やMHC発現低下が頻繁に観察される。ワクチン開発では、効率的に提示されるエピトープを選ぶことが重要である。

アロ移植拒絶

遺伝的に異なる同種個体間で臓器や組織を移植した際、受け手の免疫系がドナー抗原を非自己と認識して攻撃する現象。急性拒絶は主にT細胞がMHC差異を直接認識して起こり、慢性拒絶は抗体や炎症が血管を損傷して進行する。MHC適合性を高めるHLAマッチングと免疫抑制薬の併用が臨床的解決策である。近年はレギュラトリーT細胞やコスティミュレーション阻害剤で寛容誘導を狙う試みが続く。ゲノム編集ブタ臓器の異種移植でもMHC同等分子の改変が重要課題となっている。

組織適合性検査

臓器移植前にドナーとレシピエントのHLA型を調べ、適合度を判定する検査。歴史的にはマイクロサイトトキシシティ試験が標準であったが、現在はPCR-SSPや次世代シーケンスで高解像度タイピングが行われる。交差適合試験(クロスマッチ)で抗ドナー抗体の有無を確認し、陽性なら移植リスクが高いと判断する。適合性が高いほど免疫抑制薬の量を減らせ、副作用を軽減できる。骨髄移植ではHLA一致が造血幹細胞の生着率とGVHD発症に直結するため、精密なタイピングが欠かせない。

遺伝的多型

同じ遺伝子座に複数のアレルが存在し個体間で配列に差がある状態。MHC領域はヒトゲノム中で最も多型が集中する場所の一つで、ペプチド結合部位に変異が集中している。多型は病原体適応や交配選好など進化的要因で維持されると考えられる。一方で、特定のアレルは自己免疫や薬剤副作用のリスク因子ともなる。大規模ゲノム解析では、多型の構造的複雑さが解析・組み立ての難易度を高めている。

T細胞受容体

T細胞がペプチド-MHC複合体を認識するヘテロ二量体膜タンパク質。α鎖とβ鎖(またはγδ)がV(D)J遺伝子再構成で多様化し、数百万種類の特異性を生む。MHC分子に提示されたペプチドの側鎖と同時にMHC自身の残基も読み取り、MHC制限性を示す。受容体とMHCの親和性や結合時間は免疫応答の強度と分化運命を左右する。がん免疫療法では、TCRエンジニアリングにより高親和性の受容体を導入し、腫瘍特異的T細胞を作製する試みが進んでいる。