1994年ノーベル生理学・医学賞
受賞理由
Gタンパク質およびそれらの細胞内情報伝達における役割の発見
受賞者
アメリカ合衆国
アメリカ合衆国
解説
わたしたちの体の細胞は、手紙のように情報をやり取りして動きます。その手紙を運ぶ配達員のような役目をするのが「Gタンパク質」です。外から来た合図(ホルモンなど)が細胞のドア(受容体)に届くと、Gタンパク質が動き出し、中に「今だよ!」と知らせを届けます。そうすることで心臓がドキドキしたり、砂糖を分解したりと、体は正しく働きます。ギルマンさんとロッドベルさんは、この配達員がどのように動くかを初めてはっきり示しました。彼らの発見のおかげで、病気を治す新しい薬も作れるようになりました。
関連キーワード
Gタンパク質
GTP(グアノシン三リン酸)を結合・加水分解してスイッチのように働くタンパク質。ヘテロ三量体型と単量体型が存在する。ヘテロ三量体型はα・β・γサブユニットから成り、GPCRによって活性化される。αサブユニットのGTP加水分解が信号終了のタイマー機構となる。多くのホルモンや感覚刺激の情報を細胞内へ伝える中心的役者である。
Gタンパク質共役型受容体
七回膜貫通構造をもつ受容体ファミリーで、光、匂い、ホルモンなど幅広い外部刺激を感知する。リガンド結合により構造変化し、Gタンパク質のGDPをGTPに交換するGEFとしてふるまう。約800種類がヒトに存在し、創薬標的の30%以上を占める。近年のクライオ電子顕微鏡解析で活性化状態構造が次々に解明されている。変異はがんや遺伝性疾患とも関連し、医学的重要性が高い。
シグナル伝達
細胞外の情報が細胞内の化学反応として翻訳される過程。受容体、セカンドメッセンジャー、キナーゼカスケードなど多段階で構成される。Gタンパク質は最初期の増幅ステップを担う。適切な伝達が崩れるとがん、糖尿病、うつ病など多彩な疾患が生じる。理解はバイオ医薬や合成生物学の基盤にもなる。
アデニル酸シクラーゼ
ATPからcAMPを作る膜結合酵素。Gsαが活性化するとcAMPが急増し、PKAを介して転写や代謝を制御する。Giαは逆に酵素を抑制し、バランスを取る。9種類のアイソフォームが存在し、組織特異的な応答を可能にする。心機能や学習記憶にも関与し、薬理学的ターゲットとして研究されている。
セカンドメッセンジャー
細胞内で最初の受容体刺激を増幅する小分子またはイオン。代表例にcAMP、IP3、Ca2+がある。Gタンパク質はこれらの生成や放出を制御する。短時間で濃度が変動し、空間的にも細胞内で局在する。システム生物学ではセカンドメッセンジャー波のダイナミクスを数理モデル化している。
GDP/GTP交換
Gタンパク質のスイッチング反応で、不活性なGDP結合型が活性なGTP結合型へ転換する。受容体やGEFが促進し、GTPアーゼ活性またはGAPが反応を終結させる。交換速度の調節がシグナル強度を決める鍵となる。疾患関連変異が交換能を変化させる例も多い。薬剤でこの反応を標的化する試みが進んでいる。
βγサブユニット
ヘテロ三量体Gタンパク質が解離した際に一緒に行動するユニット。イオンチャネルやPI3キナーゼを直接活性化し、αサブユニットとは異なる経路を担う。膜アンカーのプレニル化修飾で局在が制御される。サブユニット組み合わせが多様でシグナル選択性に寄与する。最近は創薬標的としても注目されている。
フォスホリパーゼC
Gqαによって活性化され、膜リン脂質PIP2をIP3とDAGに分解する酵素。IP3はCa2+放出を、DAGはPKC活性化を誘導し、多様な細胞応答を引き起こす。複数のアイソフォームがあり、受精・免疫応答・神経伝達などに不可欠。過剰活性は腫瘍進展に関与するため阻害剤探索が行われている。
創薬ターゲット
病気を治す薬の作用点となる分子。GPCR‐Gタンパク質系は最も成功した創薬ターゲット群で、既存医薬の約1/3がこの経路を介して働く。リガンドの種類や受容体サブタイプ毎に選択的薬剤が設計可能。バイアスシグナリングの概念も導入され、副作用低減が期待されている。AIと構造情報を使った創薬が急速に進展中。
RGSタンパク質
Regulator of G protein Signalingの略で、GTPアーゼ活性を加速し信号を短時間で終了させる。約20種が哺乳類に存在し、組織特異的発現が応答速度を微調整する。変異は高血圧や神経疾患に関連する。小分子阻害剤や安定化剤の開発で治療利用が検討されている。Gタンパク質シグナルの時間・空間制御を理解する鍵分子である。