2009年ノーベル生理学・医学賞

受賞理由

テロメアとテロメラーゼ酵素が染色体を保護する機序の発見

受賞者

エリザベス・H・ブラックバーン
エリザベス・H・ブラックバーン

アメリカ合衆国アメリカ合衆国, オーストラリアオーストラリア

キャロル・W・グライダー
キャロル・W・グライダー

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

ジャック・W・ショスタク
ジャック・W・ショスタク

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

解説

私たちの体には、遺伝子の本である染色体が入っています。本の端は何度もコピーするとすり切れるため、守るためのカバーが必要です。ブラックバーンさんたちは、そのカバーが「テロメア」と呼ばれる繰り返し配列だと突きとめました。さらに、カバーを縫い直す働きをする「テロメラーゼ」という酵素を発見しました。この仕組みのおかげで、細胞は何回分裂しても大切な遺伝情報を失わずにすむことがわかりました。

関連キーワード

テロメア

1. テロメアは染色体末端に存在する6塩基の反復配列TTAGGGから構成されます。2. 長さは種や細胞型で異なり、人では出生時5–15 kb、老化とともに短縮します。3. 先端をTループに折り畳みDNA損傷応答から末端を隠す役割を持ちます。4. 短縮が限界に達すると細胞は複製老化やアポトーシスを起こします。5. がん細胞や胚性幹細胞はテロメアを維持して無限増殖能を獲得します。

テロメラーゼ

1. テロメラーゼはTERTタンパク質とTERC RNAからなるリボ核タンパク質逆転写酵素です。2. TERCに含まれる短い鋳型配列を用いてGリッチ鎖を延長します。3. ほとんどの体細胞では発現が抑制されていますが、幹細胞・生殖細胞・がん細胞で活性化されます。4. 活性阻害剤や免疫ワクチンは抗がん治療の標的として開発中です。5. 遺伝子変異は再生不良性貧血や肺線維症などのテロメア短縮症候群を引き起こします。

末端複製問題

1. DNAポリメラーゼは3′→5′方向への伸長ができないため、ラギング鎖の末端が複製後に空隙を残します。2. これが繰り返されると染色体が世代ごとに短くなる理論的課題です。3. テロメアの存在とテロメラーゼによる再延長がこの問題を根本的に解決します。4. 発見当時は「染色体はどうやって完全に複製されるのか」という根源的疑問でした。5. この概念は分子生物学の教科書に組み込まれ、老化研究の基礎となりました。

複製老化

1. 細胞が一定回数分裂すると増殖を停止し、形態や発現プロファイルが変化する現象です。2. 主因はテロメア短縮によるDNA損傷応答の恒常的活性化とされています。3. p53やp16INK4a経路が発動し、細胞周期がG1期で停止します。4. 老化細胞は炎症性サイトカインを分泌し組織環境を変化させます(SASP)。5. がん抑制に寄与する一方、加齢性疾患の促進因子にもなる二面性があります。

シェルタリン複合体

1. TRF1・TRF2・POT1・TPP1・TIN2・RAP1の6タンパク質からなるテロメア結合複合体です。2. テロメアDNAに特異的に結合しTループ形成を助けます。3. ATM/ATR経路の誤ったDNA損傷シグナルを防ぎ、末端融合を抑制します。4. TPP1はテロメラーゼをテロメアへリクルートし活性を制御します。5. Shelterinの変異は染色体不安定性や発がんのリスク上昇と関連します。

幹細胞

1. 幹細胞は自己複製と多分化能を併せ持つ細胞です。2. 体内の組織修復に必要なため、テロメアを長く保つ機構としてテロメラーゼ活性を維持します。3. テロメア長は幹細胞の“若さ”や再生能力の指標とされます。4. 先天的にテロメラーゼが低活性の人では、造血幹細胞の枯渇による再生不良性貧血が起こりやすくなります。5. iPS細胞作製過程ではテロメアが再伸長し、胚性幹細胞と類似したエピジェネティック状態が獲得されます。