2019年ノーベル経済学賞

受賞理由

世界の貧困を改善するための実験的アプローチに関する功績

受賞者

アビジット・V・バナジー
アビジット・V・バナジー

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

エスター・デュフロ
エスター・デュフロ

フランスフランス

マイケル・クレーマー
マイケル・クレーマー

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

解説

世界には、お金や食べ物、学校に行く機会が少ない人がたくさんいます。バナジーさん、デュフロさん、クレーマーさんは「どうすれば助けられるか」を調べるために、学校や村を実際の生活のままに分けて、色々な方法を試しました。たとえば、教科書を配ったり、お医者さんを無料にしたりしました。そして、どの方法が一番うまくいくかを比べました。このような公平なくじ引き実験を通じて、子どもの勉強や健康を本当に良くする仕組みを見つけたのです。私たちが募金や国際援助をするときに、そのお金が役立つようにしてくれる研究です。

関連キーワード

ランダム化比較試験

介入グループと対照グループをくじ引きで分け、平均的な違いを統計的にゼロにすることで因果効果を推定する実験手法。医薬品の臨床試験で広く用いられてきたが、開発経済学では現場の学校や村を単位として適用される。内部妥当性が高く、政策提言へ直結しやすい一方、外部妥当性やスピルオーバーへの配慮が不可欠となる。受賞者の研究は教育、保健、金融など多岐の分野でRCTを導入し、手法面でもクラスタリング誤差や部分遵守を補正する統計的枠組みを磨き上げた。近年では機械学習との統合や、大規模な行政実験へ拡張されている。

開発経済学

低所得国の経済成長、貧困、不平等を研究する分野。伝統的にはマクロ指標や観察データに依存していたが、近年はミクロ実験と行動経済学を融合した手法が主流となった。受賞者らは理論と実験を往復させ、教育投資の収益率、健康行動の価格弾力性、クレジット制約などを精緻に測定した。これにより政策当局は限られた資源を根拠ある介入へ集中できるようになった。開発経済学は国際機関の実務にも影響を与え、J-PALやIPAなどエビデンス提供機関の設立につながった。

教育介入

学力向上や就学率改善を目的とする政策的措置。教科書配布、無償給食、少人数学級、補習チューターなど多様な形態がある。RCTにより費用対効果を比較すると、インドの補習支援のように弱い児童へ学習を合わせる方法が高い効果を示す一方、単なる資源投入は限定的という結果が得られた。教育介入は人的資本を通じて長期的な所得向上にも寄与するため、貧困削減の鍵とされる。受賞研究はこれらのプログラムを大規模に展開する際のエビデンス基盤を提供した。

デワーミング(駆虫)

寄生虫感染を防ぐために子どもへ駆虫薬を配布する公衆衛生プログラム。ケニアのRCTでは薬を無償提供したときに服用率が急上昇し、欠席日数の減少と将来的な所得増が確認された。隣接地域の寄生率も下がる正のスピルオーバー効果があり、社会的費用対効果は極めて高いと評価される。研究結果はWHOのガイドライン改訂を促し、現在8億人以上の児童が無料駆虫の対象となっている。

マイクロクレジット

貧困層向けに少額・無担保で融資を行う金融サービス。当初は起業を促す万能薬と期待されたが、受賞者らのRCT(インド・ハイデラバードなど)は、投資や所得への短期効果は小さく、消費や教育にはほぼ影響しないと報告した。これにより過度な期待が修正され、融資と合わせてトレーニングや市場アクセス支援を組み合わせる複合的アプローチが重視されるようになった。

行動経済学

人間が必ずしも完全に合理的でない点を前提に、心理的バイアスを経済行動へ組み込む学問領域。現在バイアスや限定合理性は、貧困下での投資や貯蓄の遅延を説明する鍵概念となる。肥料購入の時限割引実験は、短期的インセンティブが恒常補助より効果的であることを示し、政策設計に行動的洞察を取り入れる重要性を浮き彫りにした。

外部妥当性とスピルオーバー

RCT結果を他地域や大規模政策へ一般化する際の課題。受賞者は飽和設計や隣接グループ分析でスピルオーバーを測定し、効果の過大評価を防いだ。また一般均衡モデルと組み合わせ、価格変化や市場混雑の影響を推定する手法を開発した。これにより小規模実験から全国展開への橋渡しが現実的となった。

貧困削減政策

所得向上、健康改善、教育機会拡大などを通じて貧困を軽減する政府やNGOの取り組み。受賞者の研究は、費用対効果に基づく優先順位付けとモニタリングの重要性を示し、エビデンスに基づく政策立案(EBPM)の潮流を加速させた。現在、400万人以上がRCTで効果が確認されたプログラムの恩恵を受けていると推計される。