1915年ノーベル化学賞

受賞理由

植物色素物質(クロロフィル)に関する研究

受賞者

リヒャルト・ヴィルシュテッター
リヒャルト・ヴィルシュテッター

ドイツ帝国ドイツ帝国

解説

葉っぱが緑に見えるのは「クロロフィル」という色素が光を吸収しているからです。リヒャルト・ヴィルシュテッターは、クロロフィルを植物の葉から取り出して、性質や成分を詳しく調べました。彼はクロロフィルが二つの種類(aとb)からできていることを突きとめました。この発見は、植物が太陽の光を使って食べ物や酸素を作る“光合成”の仕組みを理解する大きな手がかりになりました。私たちが呼吸で取り込む酸素も、クロロフィルが働くおかげで作られているのです。

関連キーワード

クロロフィル

クロロフィルは葉緑素とも呼ばれ、植物や藻類、シアノバクテリアの光合成に不可欠な緑色色素です。分子中央にマグネシウムを含むポルフィリン環を持ち、光を吸収して励起電子を生み出します。クロロフィルにはaとbのほか、c,d,fなどの類似分子が存在し、吸収波長の違いで光の利用効率を高めています。秋に葉が赤や黄に変わるのはクロロフィルが分解され、他の色素が目立つためです。クロロフィルの構造と機能の解明は、人工光合成やバイオハイブリッド太陽電池の開発にも応用されています。

ポルフィリン環

ポルフィリン環は四つのピロール環がメチン架橋で連結した大きな平面環状分子です。中心に金属イオンを錯形成することで多彩な生体機能を発揮し、クロロフィルではMg、ヘムではFeが配位しています。広範な共役π電子系を持つため強い可視光吸収帯(ソーレバンドなど)が現れ、色鮮やかな化合物が多いことが特徴です。ポルフィリン誘導体は光増感剤や触媒、分子エレクトロニクス材料としても利用されます。Willstätterがクロロフィルをポルフィリン骨格と同定したことは、生物無機化学の基礎概念を確立する一歩となりました。

マグネシウム錯体

クロロフィル分子に含まれるマグネシウムは、四つの窒素原子で囲まれた中心位置に配位し、光吸収エネルギー準位を調節します。この金属中心は電子密度を変化させることで、エネルギー移動や電荷分離の初期過程を効率化します。Willstätterがマグネシウムを検出した当時、金属が植物色素に含まれるという発想は画期的でした。後の研究で、金属をZnやNiに置換すると吸収スペクトルや蛍光が大きく変化することが示され、光機能材料設計に応用されています。生体内でのMg錯形成メカニズムを理解することは、光合成の進化を読み解く手がかりにもなります。

カロテノイド

カロテノイドはオレンジや黄色を呈する長鎖ポリイソプレノイド色素で、植物ではクロロフィルと共存して光合成装置を守っています。光の過剰エネルギーを熱に変換したり、活性酸素を消去したりして光酸化ダメージを防止します。Willstätterはクロロフィルの純度を高める過程でカロテノイドを分離・命名し、その存在意義に注目しました。カロテノイドは人間の視覚や抗酸化作用とも関連し、食品科学や栄養学で重要な研究対象となっています。近年はカロテノイドの共役系を利用した有機フォトニクス材料開発も進んでいます。

光合成

光合成は植物や藻類、光合成細菌が太陽光を利用して二酸化炭素と水から糖と酸素を生成する生命維持プロセスです。クロロフィルが光子を吸収して励起し、電子伝達鎖を通じて化学エネルギー(ATP, NADPH)が蓄えられます。その後カルビン・ベンソン回路で炭素固定が行われ、グルコースが合成されます。Willstätterの色素化学研究は、光吸収段階の分子基盤を示したことで光合成全体の理解を深めました。光合成の原理は、再生可能エネルギーや温暖化対策の鍵として、人工光合成やバイオ燃料生産に応用が検討されています。