1926年ノーベル化学賞
受賞理由
分散系に関する研究
受賞者
スウェーデン
解説
牛乳をよく観察すると、液体の中にとても小さな白い粒がただよっています。こうした粒が水や油の中にばらばらに散らばった状態を「分散系」と呼びます。スヴェドベリ博士は、粒を高速で回転させて沈む速さを調べる特別な機械(ウルトラ遠心機)を発明しました。回す速さと粒の沈み方を比べると、粒の大きさや重さを知ることができます。この仕組みは、たんぱく質やインク、アイスクリームなど身近な物の性質を調べるのに役立ち、博士はその功績でノーベル化学賞を受賞しました。
関連キーワード
分散系
分散系とは、固体・液体・気体の微粒子が別の相の中に均一に散在している状態を指します。粒子径は真溶液より大きく、沈降や光散乱など独特の物理現象を示します。ミルク、霧、ペイントなど身近な例が多く、食品工学や環境科学でも重要です。粒子の表面と媒質の界面で起こる電荷や吸着の効果が安定性を左右します。スヴェドベリは分散系の粒子を定量的に測る初の手段を提供し、この分野を定式化しました。
コロイド
コロイドは粒子径がおよそ1 nmから1 µmの範囲にある分散系の一種です。粒子はブラウン運動で漂うため、長時間沈殿せず安定して見えます。チョコレートドリンクや石鹸泡は典型的なコロイドです。光を当てるとチンダル散乱が起こり、光の道筋が見える特性があります。スヴェドベリの研究はコロイド粒子を質量レベルで解析する道を開きました。
沈降係数
沈降係数は粒子が遠心場で沈む速度を角速度と半径で正規化した値で、単位はS(スヴェドベリ)です。値が大きいほど粒子は重く大きいことを示します。生物学ではリボソームの30S、50Sなどの分類に使われます。この係数は温度や溶媒密度にも依存し、精密測定には補正が必要です。スヴェドベリが定義し、現在も分析超遠心法の中心指標となっています。
ウルトラ遠心機
ウルトラ遠心機は毎分数万〜十数万回転という高速で試料を回し、超強力な遠心力を発生させる装置です。遠心力は地球重力の数十万倍に達し、微小粒子を短時間で分離できます。スヴェドベリが最初の研究用機を1923年に完成させました。現在はDNAの精製やウイルスの濃縮にも欠かせません。回転子の材料工学と真空・冷却技術の発展が装置性能を決定します。
ブラウン運動
ブラウン運動は液体中の微粒子が熱運動する分子に連続的に衝突され、不規則に動き回る現象です。これがあるため、微細粒子は重力で沈むだけでなく揺らぎを伴います。粒子サイズが小さいほどブラウン運動の影響が大きく、沈降速度測定に補正が必要です。スヴェドベリは沈降と拡散が競合するモデルを構築しました。これはコロイド安定性の理論的基盤となりました。
ストークスの法則
ストークスの法則は半径aの球が粘度ηの流体中を速度vで移動するときに受ける抵抗力F=6πηavを与えます。粒子沈降速度の計算に不可欠で、沈降係数式にも組み込まれています。法則は低レイノルズ数領域でのみ成り立つため、粒子が大きい場合は補正が必要です。スヴェドベリはストークス流体力学を用いて粒子質量と形状因子を分離しました。これにより非球形粒子の解析精度が向上しました。
分子量測定
分子量測定は化学物質の性質理解や配合設計の基礎データとなります。沈降法は溶液中で直接重さを測る数少ない物理的方法です。スヴェドベリは沈降係数と拡散係数を組み合わせ、タンパク質など非揮発性の巨大分子の分子量を初めて精密に求めました。これによりマクロ分子概念が受け入れられ、高分子化学が発展しました。現代でもAUCや質量分析と並ぶ重要技術です。
粒子径分布
粒子径分布は系内に存在する粒子がどの大きさ帯にどれだけ含まれるかを示す統計です。単一径ではなく分布全体を把握することで、沈降性や光学特性の予測が正確になります。スヴェドベリは超遠心法から得られる濃度プロファイルを数値的に微分し、分布関数を逆算しました。この方法は多分散系の評価に革新をもたらしました。現在はレーザー回折やDLSと合わせて品質管理に広く利用されています。