1938年ノーベル化学賞

受賞理由

カロテノイド類、ビタミン類についての研究

受賞者

リヒャルト・クーン
リヒャルト・クーン

大ドイツ国大ドイツ国

解説

にんじんやトマトがオレンジ色や赤色をしているのは「カロテノイド」という色のもとが入っているからです。私たちの体が元気に育つためには「ビタミン」という大事な栄養が必要です。リヒャルト・クーン博士は、この色とビタミンがどんな形をしているかを調べた科学者です。彼は植物や牛乳などからほんのわずかな色やビタミンを取り出し、どんな材料でできているのかを突き止めました。そのおかげで、にんじんを食べると目に良い理由や、ビタミンが足りないと病気になる仕組みが分かるようになりました。こうした大きな発見が認められ、彼はノーベル化学賞を受賞しました。

関連キーワード

カロテノイド

カロテノイドは植物、藻類、細菌などが合成する黄色から赤色の脂溶性色素です。β-カロテンやリコペンなど約1000種類以上が知られており、共役二重結合を長く持つポリエン鎖が特徴です。この鎖が光を吸収しやすく、光合成補助や光防御、シグナル伝達に関与します。ヒトでは抗酸化作用やビタミンA前駆体として重要で、食品成分としても評価されています。クーンはクロマトグラフィーと分光法を組み合わせ、多数のカロテノイドを初めて分離・構造推定しました。彼のデータは現在の栄養学や植物科学の基礎情報となっています。

β-カロテン

β-カロテンはカロテノイドの代表例で、ニンジンやカボチャに豊富に含まれる橙色色素です。分子内に11個の共役二重結合を持ち、強い可視光吸収を示します。体内で2分子のレチナールに変換され、ビタミンAとして視覚や免疫機能を支えます。クーンはβ-カロテンの吸収スペクトルと化学分解生成物からその基本骨格を描きました。今日の栄養学では推奨摂取量や毒性上限が議論される重要な微量成分です。

リボフラビン

リボフラビンはビタミンB2とも呼ばれ、フラビンモノヌクレオチド(FMN)やフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)の前駆体となる黄色色素です。これらの補酵素は酸化還元反応を触媒する多数の酵素に結合し、エネルギー代謝や脂質分解に関与します。クーンは牛乳や卵黄からリボフラビンを大量に抽出し、その分子式とイソアロキサジン骨格を明らかにしました。彼の合成ルートは現在の微生物発酵法が確立するまで利用されました。欠乏すると口角炎や成長障害が起こるため、食品への添加やサプリメント製造が一般化しています。

ピリドキシン

ピリドキシンはビタミンB6群のひとつで、体内でピリドキサール-5-リン酸に変換され補酵素として働きます。アミノ酸の転移、脱炭酸、ラセミ化など多様な酵素反応を支えるため、タンパク質代謝に不可欠です。クーンは酵母抽出液からピリドキシンを単離し、ピリジン環にメチルおよびヒドロキシルが結合する構造を決定しました。この研究はビタミンB6欠乏症の診断薬開発につながりました。現在は医薬品合成と発酵生産により安定供給されています。

分光法

分光法は物質が吸収・放出する光を測定し、分子構造やエネルギー状態を解析する手法です。クーンは紫外可視分光法を用いて、共役ポリエン鎖の長さと吸収波長の相関を定量化しました。この関係式は今日の色素化学における基本原理として教科書に掲載されています。分光法は非破壊・高速で微量試料にも適用できる点が大きな利点です。現在では赤外、ラマン、NMRなど多様な分光法が有機化学と生化学の標準解析ツールとなっています。

抗酸化作用

抗酸化作用とは、活性酸素種やフリーラジカルによる細胞ダメージを抑える化学的性質を指します。カロテノイドは共役二重結合により一重項酸素を消去し、膜脂質の過酸化を防ぎます。クーンの研究はカロテノイド分子の長いポリエン鎖が電子を安定化させ、抗酸化力を発揮することを示唆しました。この知見は加齢黄斑変性や動脈硬化の予防を目的とした機能性食品開発に応用されています。現在もカロテノイドの抗酸化メカニズムは医薬・食品両分野で活発に研究されています。