1944年ノーベル化学賞

受賞理由

重元素の核分裂の発見

受賞者

オットー・ハーン
オットー・ハーン

大ドイツ国大ドイツ国

解説

私たちの世界を作っている物質は、もっと小さくすると「原子」という粒でできています。オットー・ハーンは、その原子の中心にある「原子核」を割ることができることを見つけました。原子核が割れると、とても大きなエネルギーと小さな粒(中性子)が飛び出します。これは、カチッと割ったところから火花が飛び出すクラッカーのように、ほんの少しのきっかけで大きな力が出る現象です。この発見は、電気を作る原子力発電や、科学実験で強いエネルギーをつくる仕組みの基礎になりました。しかし、その力が兵器にも使われることがあり、エネルギーの利用方法について考えるきっかけにもなりました。

関連キーワード

核分裂

核分裂は重い原子核が二つまたはそれ以上の軽い核に裂ける現象です。裂ける過程で約200MeVという膨大なエネルギーが運動エネルギーやガンマ線として放出されます。そのエネルギー密度は石炭の数百万倍に相当し、発電や爆薬の原理になります。分裂片は不安定なため連続してβ崩壊し、多様な放射性同位体を生成します。ハーンの発見によってこの現象が実証され、核化学と原子力工学の扉が開かれました。

重い原子核

重い原子核とは一般に質量数が200前後以上の元素を指し、ウランやトリウムが代表例です。これらの核は陽子数が多く、クーロン斥力によって表面エネルギーとバランスが取れにくくなります。そのため、中性子による励起で核分裂障壁を越えやすいという特徴があります。重い原子核の分裂挙動を理解することは、核燃料選定や廃棄物管理に直結します。ハーンはウランの化学分析から、重い原子核が意外に不安定であることを示しました。

連鎖反応

連鎖反応は、核分裂で放出された中性子が次の核分裂を引き起こし、反応が自己増殖的に進む過程です。臨界質量を上回る量の核燃料があれば、中性子損失より生成が上回り持続します。制御棒や冷却材を用いて中性子の数を調整すると、原子炉では熱だけを安全に取り出せます。逆に制御が無い場合は中性子が指数関数的に増加し、極めて短時間に大きなエネルギーを放出します。チェーン反応の理解は、核安全や兵器設計の基礎です。

ウラン235

ウラン235は天然ウランに約0.7%含まれる同位体で、熱中性子による核分裂に高い確率で応答します。ハーンの時代には濃縮技術が未発達でしたが、この同位体が連鎖反応の主役であることが早くから認識されていました。U-235の臨界質量は約52kg(裸球換算)で、核爆弾や加圧水型炉燃料の設計パラメータとなります。燃焼後にはプルトニウム239などが生成され、核燃料サイクルの複雑さを増します。ウラン235の核データは原子力政策や不拡散体制を左右する戦略的情報でもあります。

中性子

中性子は電荷を持たない核子で、陽子とともに原子核を構成します。電荷が無いためクーロン反発を受けず、原子核に容易に侵入して反応を起こさせることができます。核分裂を開始し、さらに次の分裂を駆動する「触媒」のような役割を果たします。炉心では減速材により熱中性子へ減速されることで、核分裂断面積が最大化されます。一方、高速中性子を利用する高速炉では、高速スペクトルでの中性子経済が議論されます。

原子力発電

原子力発電は核分裂で発生した熱エネルギーを利用して蒸気タービンを回し、電気を作る方法です。1950年代に商業炉が稼働して以来、低炭素で大量の電力を供給する手段として世界各国が採用してきました。一次冷却系、二次冷却系、格納容器など多重の安全装置を備え、連鎖反応を厳密に制御します。事故時には放射性物質が漏れる危険があり、チェルノブイリや福島第一の経験が安全基準の見直しを促しました。再処理や廃棄物管理を含む燃料サイクルは、技術・経済・社会的課題を一体的に扱う必要があります。