1952年ノーベル化学賞
受賞理由
分配クロマトグラフィーの開発およびその応用
受賞者
イギリス
イギリス
解説
色えんぴつのインクを紙にしみこませて水をたらすと、インクがいくつかの色に分かれて広がることがあります。これと同じ仕組みをもっと上手に利用したのが「分配クロマトグラフィー」です。マーティンさんとシングさんは、液体を2種類の『紙』のような場所に行ったり来たりさせて、混ざっている成分を順番に分ける方法を考え出しました。これにより、たとえばアミノ酸やビタミンなど小さな分子をきれいに取り出せるようになりました。今では薬づくりや食品検査など、私たちのくらしの安全を守るために毎日使われています。
関連キーワード
分配クロマトグラフィー
互いに混ざりにくい2つの液体相の間で生じる溶質の分配平衡を利用するクロマトグラフィー手法である。固定相は通常、水や緩衝液など極性の高い相、移動相は有機溶媒など非極性の相として設計される。溶質は両相間を往復しながら移動し、分配係数の差によって移動速度が決まる。マーティンとシングが理論化したことで、紙を担体にした簡便な装置でも高い分離能が得られるようになった。現在はカラム充填剤にシリカゲルやポリマーを用いたHPLCへ発展し、複雑サンプルの定量分析に不可欠である。
クロマトグラフィー
混合物を構成成分に分離する分析技術の総称で、固定相と移動相の物理化学的相互作用を利用する。19世紀末に植物色素の分離で誕生し、その後ガス、液体、超臨界流体など多様な媒体が導入された。分解能、感度、速度の改善により、医薬品開発、食品安全、環境科学など幅広い分野で中心的役割を担う。検出器もUV、蛍光、質量分析計などと統合され、多次元分離と高感度検出が可能となった。21世紀にはマイクロ流体チップや自動化プラットフォームと組み合わされ、高スループット解析の基礎技術として進化している。
固定相
クロマトグラフィーにおいて溶質を一時的に保持する役割をもつ相で、シリカゲル、セルロース、ポリマー担体などが用いられる。分配クロマトグラフィーでは水や高極性溶媒が担体表面に固定され、溶質が吸着・脱着を繰り返す。固定相の化学的性質(官能基、表面エネルギー)と形態(粒径、細孔径)は分離能とピーク形状を大きく左右する。最適化には理論段数、Eddy拡散、質量移動抵抗などのパラメータが指標となる。近年はモノリシックカラムやナノ多孔材料の導入で、低圧損かつ高効率の分離が可能となっている。
移動相
クロマトグラフィーで試料を固定相に対して移動させる流体で、液体あるいは気体が用いられる。分配クロマトグラフィーでは非極性有機溶媒が一般的で、溶質の溶解度と固定相との親和性の差で分離が起こる。移動相の組成、pH、イオン強度、勾配プログラムは保持時間とピーク分離度を制御する重要因子である。高性能液体クロマトグラフィーではポンプ精度と溶媒脱気が再現性に直結する。グリーンケミストリーの観点から、水系移動相や超臨界二酸化炭素を用いた手法も研究が進んでいる。
アミノ酸分析
タンパク質や食品中のアミノ酸を定量する手法で、分配クロマトグラフィーはその歴史的出発点となった。各アミノ酸は分極性や電荷が異なるため、固定相との相互作用が変化し、秩序良く分離できる。試料を加水分解後、誘導体化して可視または蛍光検出することでピコモルレベルの感度が得られる。結果は栄養評価、代謝異常診断、バイオ医薬品品質管理に活用される。今日ではHPLCやキャピラリー電気泳動が主流となるが、基本原理はマーティンとシングの研究に根ざしている。
ペーパークロマトグラフィー
ろ紙を担体として用いる最もシンプルなクロマトグラフィーの形式で、教育・研究現場で広く活用されてきた。紙中のセルロース繊維が水を保持し、これが固定相として機能する。展開溶媒を下端または上端から浸透させると、毛細管現象で溶媒前線が移動し、その流れに沿って溶質が分配移動する。Rf値の比較で未知試料を同定でき、コストも低いのが特徴である。食品添加物検査から植物色素の同定まで応用範囲が広い。
高性能液体クロマトグラフィー
高圧ポンプで移動相をカラムに送液し、微粒子固定相によって高効率分離を実現する液体クロマトグラフィー。マーティンとシングの理論を基盤に、粒径、カラム長、圧力の最適化で理論段数を大幅に向上させた。検出器はUV、蛍光、質量分析と多彩で、定性・定量を同時にこなす。医薬品原料の不純物プロファイルや環境汚染物質のトレーサビリティ確保に不可欠である。近年は超高圧LC(UHPLC)やマイクロフローLCに発展し、分析時間短縮と溶媒削減が進む。
吸着
固体や液体の表面に分子が引き付けられて濃縮する現象で、クロマトグラフィーの保持メカニズムの一部を構成する。分配クロマトグラフィーでは主に溶解度差が支配的だが、実際には固定相表面への弱い吸着も分離挙動に影響する。吸着等温線(Langmuir, Freundlich)は保持時間とピーク対称性を予測する指標となる。温度やpHの変化で吸着エネルギーが変動し、選択性をチューニングできる。環境化学では活性炭やゼオライトの吸着性能評価にも同様の理論が応用される。