1957年ノーベル化学賞

受賞理由

ヌクレオチドとその補酵素に関する研究

受賞者

アレクサンダー・トッド
アレクサンダー・トッド

イギリスイギリス

解説

私たちの体はとても小さな部品でできています。その中には、エネルギーを運んだり、遺伝情報を伝えたりする「ヌクレオチド」という分子があります。トッドさんは、このヌクレオチドがどんな形をしていて、どうやって働くのかを調べました。たとえば電池のようにエネルギーを渡すATPや、手紙のように情報を運ぶDNAの一部もヌクレオチドです。トッドさんのおかげで、科学者はこれらを作ったり研究したりできるようになりました。今では薬を作るときにもとても役立っています。

関連キーワード

ヌクレオチド

塩基・五炭糖・リン酸が結合した化合物で、DNAやRNAの最小構成単位です。ATPやGTPのように三リン酸体としてエネルギー運搬体にもなります。細胞内シグナル伝達や酵素の補助因子として多彩な役割を担います。トッド卿はその化学構造を決定し、人工合成法を確立しました。これにより、研究者は特定の塩基配列や修飾体を自在に作り出せるようになり、分子生物学が飛躍的に発展しました。

補酵素

補酵素は酵素タンパク質とゆるく結合し、化学反応を補助する低分子有機化合物です。NAD+やFAD、CoA など多くがヌクレオチド構造を部分的に含みます。反応中に電子や化学基を一時的に保持し、再利用可能である点が特徴です。トッドの研究は、補酵素のリン酸結合や糖部分の重要性を示し、活性部位での配向を化学的に説明しました。これにより代謝経路の機能解析や薬理学的阻害剤の設計が容易になりました。

ATP

アデノシン三リン酸(ATP)は細胞の「エネルギー通貨」と呼ばれ、リン酸結合を切ることで約 30 kJ/mol の自由エネルギーを放出します。トッド卿は ATP の純粋な化学合成と構造決定を行い、三リン酸鎖が直線的に連結していることを示しました。彼の手法で得られた ATP は酵素学実験の標準試薬となり、ミオシンの運動機構や光合成の光リン酸化など多くの研究を可能にしました。今日ではバイオセンサーやナノ機械の駆動源としても利用されています。生体内での合成は主にミトコンドリアの酸化的リン酸化で行われます。

NAD+

ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)は酸化還元反応で電子を受け渡す補酵素です。酸化型 NAD+ と還元型 NADH がペアとなり、多くの脱水素酵素の反応を媒介します。トッドは NAD+ に含まれる二つのヌクレオチドがピロリン酸結合で連結していることを明確にし、合成経路を確立しました。これにより、化学者はラベル化標識体や阻害剤アナログを作製できるようになりました。近年では、寿命やエピジェネティクスに関わるサーチュイン酵素の基質としても注目されています。

リン酸化

リン酸化は分子にリン酸基を付加する化学反応で、エネルギー貯蔵やシグナル伝達を調節します。トッドの研究は、リン酸結合の形成・切断を人工的に再現する手段を提供し、ヌクレオチド三リン酸の化学安定性を詳細に解析しました。生体ではキナーゼ酵素が ATP を使ってタンパク質をリン酸化し、活性を変化させます。一方でホスファターゼがリン酸を外して元に戻します。薬剤開発では、リン酸化経路の阻害ががんや炎症の治療ターゲットになっています。トッドの成果は、こうしたリン酸化ネットワークを理解する基盤となりました。

ホスホジエステル結合

ホスホジエステル結合は二つの糖分子をリン酸で橋渡しする結合で、DNA や RNA の骨格を形成します。トッド卿はこの結合の化学的合成と切断反応を詳細に調べ、オリゴヌクレオチド合成の効率を高める保護基戦略を提案しました。ホスホジエステルの加水分解耐性は pH と金属イオンに影響されることを示し、核酸安定性の基礎データを提供しました。今日の自動 DNA/RNA 合成装置は、この知見を発展させたホスホロアミダイト法を採用しています。さらに、アンチセンス医薬や siRNA の化学修飾設計にも不可欠な概念です。