1962年ノーベル化学賞
受賞理由
球状タンパク質の構造研究
受賞者
イギリス
イギリス
解説
私たちの体は“タンパク質”という小さな部品でできています。タンパク質は、糸くずが丸まったように複雑な形をしていて、その形が働きを決めます。ペルーツさんとケンドリューさんは、1962年に初めてタンパク質の立体的な形をはっきりと調べることに成功しました。彼らはX線という目に見えない光をタンパク質の結晶に当て、現れた星のような模様を手がかりにパズルのように形を組み立てました。これは懐中電灯で作った影絵から元の形を推理するのに似ています。この発見のおかげで、病気のしくみを理解したり、新しい薬を作ったりする手助けができるようになりました。
関連キーワード
X線結晶構造解析
結晶にX線を照射し、回折パターンから原子の配置を計算する方法である。ペルーツとケンドリューはこの技術をタンパク質に初めて適用した。位相問題を解決するために重原子同型置換法を導入し、フーリエ変換を用いて電子密度マップを得た。現在ではシンクロトロン光源やXFELによって分解能と測定速度が飛躍的に向上している。立体構造情報は酵素機構解明や創薬標的の最適化に不可欠となっている。
重原子同型置換法
結晶中の一部原子を電子の多い重原子に置き換え、回折強度の差から位相を推定する手法。ペルーツらはHgやPtをタンパク質結晶に結合させて位相情報を獲得した。差分Patterson関数で重原子位置を決定し、得られた位相を複数組み合わせて精度を向上させた。このアプローチはその後、単波長・多波長異常分散法へと発展した。位相問題を克服する鍵技術として、現在も結晶学で広く用いられている。
ヘモグロビン
赤血球内で酸素を運搬する四量体タンパク質(α2β2)。ペルーツの解析で初めて粗い立体構造が明らかになり、協同的酸素結合モデルの基盤を提供した。四つのヘム基がO2と可逆的に結合し、pHやCO2濃度によるアロステリック効果を示す。構造情報は貧血症変異の機序解明や人工血液開発に寄与している。現在もタンパク質ダイナミクス研究の古典的モデル系として重要である。
ミオグロビン
筋肉組織に存在する単量体タンパク質で酸素貯蔵に働く。ケンドリューは2.0 Å分解能で全原子モデルを決定し、αヘリックス束フォールドを初めて示した。ヘム基周辺の立体配置から、酸素や一酸化炭素結合特性が分子レベルで説明できるようになった。構造はタンパク質折り畳み研究や分子動力学シミュレーションのベンチマークとなっている。ミオグロビン変異体はバイオセンシングや合成生物学にも応用されている。
構造生物学
生体高分子の立体構造と機能の関係を探る学際的分野。X線結晶学、NMR、クライオ電子顕微鏡などの手法を用いる。1962年のノーベル化学賞はこの分野の幕開けを告げ、以後多数のノーベル賞が同領域から誕生した。立体構造は配列情報と並んで生命科学の基盤データとなっており、創薬、酵素設計、分子進化解析に不可欠である。AIによる構造予測(例: AlphaFold)も、この学問体系の上に築かれている。
フーリエ合成
回折データの振幅と位相を用いて電子密度を計算する数値手法。ペルーツとケンドリューはパンチカードと初期コンピュータを用いて大規模フーリエ計算を実施し、タンパク質密度マップを得た。現在はFFTアルゴリズムとGPU計算で秒オーダーで実行可能となっている。フーリエ合成の精度はB因子補正やデータ完備率に影響される。得られた電子密度はモデル構築と精密化サイクルで繰り返し更新される。