1963年ノーベル化学賞
受賞理由
新しい触媒を用いた重合法の発見とその基礎的研究
受賞者
西ドイツ
イタリア
解説
プラスチックは、たくさんの小さな分子が手をつないで長い鎖になった「高分子」です。ツィーグラーさんとナッタさんは、その鎖づくりを手伝う「触媒」という特別な助っ人を見つけました。触媒があると、分子はまるでレゴブロックのように素早くきれいに並び、丈夫なプラスチックになります。これにより、大きな機械や高い温度を使わなくてもプラスチックを作れるようになりました。私たちが使う買い物袋やお弁当箱、おもちゃなどは、この発見のおかげで安く大量につくれるようになりました。だから、ふたりの研究は私たちの毎日の生活を便利にしてくれているのです。
関連キーワード
ツィーグラー・ナッタ触媒
ツィーグラー・ナッタ触媒は、アルキルアルミニウム化合物と遷移金属塩を組み合わせた多成分系触媒である。主にエチレンやプロピレンなどのオレフィンを配位挿入機構で重合させ、高結晶性のポリオレフィンを生成する。1953年にカール・ツィーグラーが高密度ポリエチレンを合成したのち、1954年にジュリオ・ナッタが立体規則性ポリプロピレンを開発し、両者の名が冠された。触媒はヘテロ不均一系(TiCl3/MgCl2 などの固体)と可溶性のホモ均一系(メタロセン触媒)に大別される。工業規模では固体触媒が主流で、年産数千万吨のポリオレフィンを低圧条件で製造している。近年は電子供与剤やサポート化技術により、立体選択性、分子量分布、共重合性の精密制御が可能となっている。
高分子
高分子とは、1万個以上の原子が共有結合で連結した巨大分子を指す。天然の高分子にはセルロースやタンパク質、合成高分子にはナイロンやポリエチレンなどがある。分子量が大きいほど、溶融粘度が高く、機械的強度や耐薬品性が向上することが多い。構造の規則性(立体規則性、分岐、共重合単位の配列)は物性を大幅に左右する。ツィーグラー・ナッタ触媒により得られる高密度ポリエチレンやイソタクチックポリプロピレンは、規則性が高いため結晶化しやすく、耐熱性や剛性に優れる。高分子化学は材料科学、医学、エネルギー分野など多岐にわたり応用され、現代社会の基盤を支えている。
立体規則性
立体規則性とは、高分子主鎖に結合した置換基が空間的にどのように並ぶかを示す概念である。プロピレンのような不対称モノマーでは、メチル基が同じ側に並ぶイソタクチック、交互に並ぶシンジオタクチック、無秩序なアタクチックが区別される。Ziegler–Natta 触媒は触媒表面構造により、イソタクチックまたはシンジオタクチック鎖を選択的に生成できる。高い立体規則性は結晶化を促進し、融点、ヤング率、耐熱変形温度を大幅に高める。立体規則性の制御は、金属触媒の対称性や電子的性質を変えることで達成され、現代のメタロセン触媒はその精密制御の一例である。立体規則性解析には13C NMRやワイドアングルX線散乱が用いられ、tacticity と物性の相関が研究されている。
高密度ポリエチレン
高密度ポリエチレン (HDPE) は、分岐の少ない直鎖状構造をもつポリエチレンで、密度は0.94 g/cm³前後である。Ziegler が発見した触媒により、従来の高圧ラジカル法では不可能だった低圧・低温合成が実現した。HDPE は結晶化度が高く、引張強度、耐衝撃性、耐薬品性に優れるため、パイプ、容器、キャップ、玩具などに広く使われる。分子量と分子量分布は触媒の活性サイトと運転条件で調整でき、ミクロ構造が物性に直結する代表例である。ガス相流動層プロセスで大量製造され、地球規模での年間需要は数千万トンを超える。リサイクル適性が高く、HDPE の再資源化は循環型社会の実現に向けた重要課題となっている。
イソタクチックポリプロピレン
イソタクチックポリプロピレン (i-PP) は、すべてのメチル基が同じ側に並んだ高い立体規則性を持つポリプロピレンである。1954年、ナッタは Ziegler–Natta 触媒を改良し、i-PP を初合成して高い融点と結晶性を示す材料として報告した。i-PP は軽量ながら剛性と耐熱性が高く、自動車部品、家電筐体、繊維などに大量使用されている。結晶転移や昇華結晶 (α, β, γ 相) の存在が物性に影響を与え、核剤添加による結晶形制御は加工特性向上に寄与する。共重合(例: エチレンとのランダム共重合)により靭性や透明性を調整したインパクトコポリマーも商業的に重要である。i-PP の高性能化は、メタロセンや post-metallocene 触媒による tacticity 微調整が鍵となっている。
配位重合
配位重合は、遷移金属中心にモノマーが配位し、挿入反応によって鎖が成長する重合方式である。Ziegler–Natta 触媒を用いたオレフィン重合はその典型例で、ラジカル重合とは異なり立体制御や分子量制御が容易である。モノマーは金属の d 軌道へπ結合で結びつき、σ-アルキル金属結合への1,2挿入を経て成長鎖端が再び空席を作り連続反応する。配位重合により生成したポリマーは分岐が少なく、結晶性や機械的物性が優れていることが多い。触媒設計の進展により、シクロオレフィン、アクリレート、一酸化炭素共重合など反応範囲が急速に拡大した。配位重合の理論は、有機金属化学、表面科学、計算化学の統合的研究により深化しつづけている。