1967年ノーベル化学賞

受賞理由

短時間エネルギーパルスによる高速化学反応の研究

受賞者

マンフレート・アイゲン
マンフレート・アイゲン

西ドイツ西ドイツ

ロナルド・ノーリッシュ
ロナルド・ノーリッシュ

イギリスイギリス

ジョージ・ポーター
ジョージ・ポーター

イギリスイギリス

解説

化学反応は、料理のように材料が混ざって変わる出来事です。アイゲン、ノーリッシュ、ポーターの3人は、その出来事が“どれくらい速く起こるか”をとても短い時間で測る方法を考えました。カメラのフラッシュをたいた瞬間に写真を撮ると、止まっているように見える跳んでいるボールを写せます。同じように、強い光や電気の“パルス”を一瞬だけ当てて反応を始めさせ、その直後をのぞき見る装置を作ったのです。こうして、人のまばたきより何百万倍も速い反応の様子が初めて分かりました。彼らの発明は、薬を作るスピードアップや、光合成の秘密を知る手がかりになっています。

関連キーワード

超高速化学反応

マイクロ秒より短い時間で完了する反応を指す。従来の試験管実験では追跡できないが、パルス技術と時間分解分光によって一連の中間体を直接観測できるようになった。薬理学、燃焼化学、気相反応など幅広い分野で重要性が高い。速度論的パラメータを知ることで、反応制御や設計が可能となる。フェムト秒レーザーの登場により、フェムト秒からピコ秒スケールの研究へと発展している。

フラッシュ光分解

強い短光パルスで試料中の分子を励起・分解し、その後の吸収スペクトル変化を時間分解して観測する手法。ノーリッシュとポーターが確立し、ホスゲンや過酸化水素など多数のラジカル反応解析に成功した。光合成のP680+形成やビタミンB12の光反応機構解明にも応用された。光パルス幅が短いほどより速い過程を追えるため、キセノンランプからレーザーへと光源が進化した。現在はポンプ-プローブ測定の基本概念として受け継がれている。

緩和法

平衡状態の系に急激な温度、圧力、電場などの外部刺激を与え、平衡へ戻る過程を観測して速度定数を求める解析技術。アイゲンの温度ジャンプ装置が代表例で、10⁻⁶秒領域の反応解析を可能にした。数学的には多指数型減衰を固有値問題として解くことで複数の反応経路を同時に扱える。イオン会合、酸塩基平衡、タンパク質折りたたみなど多彩な反応に適用される。レーザー温度ジャンプや圧力ジャンプとのハイブリッド装置も開発が進む。

停止流法

二つの溶液を高速で混合した直後に流路を瞬時に止め、光吸収や蛍光を測定して0.1 ms程度の反応を追う手法。フラッシュ光分解より時間分解能は遅いが、光を使わずに濃度跳躍のみで無色試料も扱える利点がある。酵素反応やタンパク質フォールディング初期段階の解析で広く用いられる。流路設計やデッドタイム短縮が進み、現在は数十μs領域までアクセス可能。近年は小角X線散乱を組み合わせ、構造変化の同時観測も実現している。

ラジカル反応

不対電子をもつラジカル種が関与する反応で、高エネルギーかつ短寿命であるため観測が困難だった。フラッシュ光分解により、ホロミラルラジカルや塩素酸化ラジカルなど幅広いラジカルの生成・消滅過程が直接測定された。大気汚染物質の生成機構やポリマー合成プロセスの理解に不可欠である。速度定数データは反応モデルの精緻化に使われ、工業スケールの安全設計にも貢献。最近は電子スピン共鳴と組み合わせてナノ秒オーダーでスピン動態を追跡できる。