1970年ノーベル化学賞
受賞理由
糖ヌクレオチドの発見と糖生合成におけるその役割についての研究
受賞者
アルゼンチン
解説
私たちが食べるパンやご飯などには「糖」と呼ばれるエネルギーのもとがあります。体の中では、その糖を運んだり新しい形に作りかえたりする小さな運び屋の分子が働いています。ルロワールさんは、その運び屋が「糖ヌクレオチド」という特別な分子だと見つけました。糖ヌクレオチドは手紙を入れる封筒のように、糖を安全に目的地まで届けます。運び屋がいなければ、体はエネルギーをうまく使えず病気になってしまいます。彼の発見は、私たちの体がどうやって元気に動けるかを理解する手がかりになりました。
関連キーワード
糖ヌクレオチド
単糖とヌクレオシド二リン酸が結合した活性化糖である。グリコシルトランスフェラーゼの基質となり、糖鎖や多糖の伸長に必須である。ルロワールの研究により中心的なエネルギーキャリアであることが示された。UDP-グルコースやGDP-マンノースなど多様な種類が存在し、糖の種類ごとに独自の生合成経路を持つ。糖鎖異常症や先天代謝異常とも関連し、臨床診断のバイオマーカーとしても応用される。
UDP-グルコース
糖ヌクレオチドの代表例で、グルコース-1-リン酸と UTP から生成される。グリコーゲン合成やセルロース合成の糖供与体として機能する。ルロワールは P-32 標識実験で本化合物を初めて同定した。高エネルギーリン酸結合がグルコースの転移反応を熱力学的に駆動する。医薬品開発では、UDP-グルコースアナログが糖転移酵素の阻害剤や糖鎖標識プローブとして利用される。
ガラクトース代謝
摂取した乳糖由来ガラクトースをグルコースへ変換する一連の酵素反応。中心に位置するのが UDP-ガラクトースとUDP-グルコースの相互変換であり、ルロワール経路とも呼ばれる。ガラクトース-1-リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ欠損は古典的ガラクトース血症を引き起こす。代謝フローを把握することで新生児スクリーニングや治療方針決定に寄与する。糖鎖バイオ合成にも回路が接続され、免疫応答やシグナル伝達の制御に影響を与える。
グリコシルトランスフェラーゼ
糖ヌクレオチドから糖を受け取り、受容体分子へ転移する酵素群。基質特異性が高く、立体化学を保持したまま糖鎖を伸長させる。ルロワールは部分精製により酵素の糖供与体選択性を示した。遺伝子工学により人工的に改変し、新規糖修飾化合物を合成する研究が進む。疾患関連の糖鎖構造変化を解析する上で重要な標的酵素でもある。
レロワール経路
ガラクトースをグルコース-1-リン酸へ変換する代謝経路の俗称。三つの主酵素(GALK, GALT, GALE)が段階的に働く。ルロワールの業績をたたえて命名された。先天代謝異常症の診断指標や治療標的として注目される。進化的には哺乳類から細菌に至るまで保存され、糖栄養の普遍性を示す。
グリコシル化
タンパク質や脂質に糖鎖を共有結合させる翻訳後修飾。糖ヌクレオチドが供与体として用いられる。細胞認識や受容体活性の調節に欠かせず、がん・免疫疾患とも関連が深い。バイオ医薬品では適切な糖鎖付加が薬効と安定性を左右する。ルロワールの基礎研究が分子機構理解の礎となった。
高エネルギーリン酸結合
ATP や糖ヌクレオチドに含まれるリン酸無水結合で、加水分解により大きな自由エネルギーを放出する。生合成反応を一方向に駆動する原動力として働く。ルロワールは UDP-グルコースのリン酸結合がグルコース転移を促進すると示した。化学的には約 −30 kJ/mol のΔG°’を持つ。代謝制御やシグナリングにも不可欠な要素である。
糖鎖異常症
糖鎖合成経路の酵素欠損または輸送体異常に起因する先天性疾患群。マルチシステム性の症状や神経発達障害を呈することが多い。糖ヌクレオチド量や糖転移酵素活性の測定が診断に用いられる。ルロワール経路関連のGALT欠損症が代表例である。治療研究では糖ヌクレオチド補充や遺伝子治療が検討されている。