1980年ノーベル化学賞(1)

受賞理由

遺伝子工学の基礎としての核酸の生化学的研究

受賞者

ポール・バーグ
ポール・バーグ

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

解説

私たちの体の設計図であるDNAは、長いひも状の分子です。バーグさんはDNAをハサミで切ったりのりで貼ったりするように、別々の生物のDNAをつなぎ合わせる方法を見つけました。この方法を「組換えDNA」と呼びます。たとえば細菌に人の遺伝子を入れて、インスリンなどの薬を作れるようになりました。現在のワクチンや遺伝子治療も、この技術があったからこそ生まれました。命の仕組みを自由にデザインできる大きな一歩だったのです。

関連キーワード

核酸

DNAやRNAといった遺伝情報を担う高分子。塩基、糖、リン酸から成るヌクレオチドが鎖状に連なる。バーグの研究は核酸の切断・再結合技術を確立し、分子生物学実験を根底から変革した。現在では遺伝子診断やワクチン設計にも不可欠な概念となっている。生物の共通言語ともいえる分子である。

組換えDNA

異なる生物由来のDNA断片を人工的につなぎ合わせた分子。目的遺伝子の大量発現や機能解析を可能にする。バーグが示した手法により、安全な医薬品の生産や農業改良が現実となった。倫理的・社会的影響への配慮も求められる技術である。現在の遺伝子編集技術の出発点ともいえる。

制限酵素

細菌が持つ防御タンパク質で、特定の塩基配列を認識してDNAを切断する。バーグらはこれを分子ハサミとして利用し、狙った位置でDNAを切る道具とした。多様な酵素が発見され、カタログ化されている。現在のゲノム工学や法医学に欠かせない。精密な遺伝子操作の基礎を築いた重要因子である。

プラスミドベクター

細菌が持つ小型の環状DNAで、外来遺伝子を運ぶ運び屋として重宝される。複製起点、薬剤耐性遺伝子、制限酵素部位などが組み込まれており、実験室で簡単に増やせる。バーグが最初に作成したシャトルベクターは真核生物にも適用できるよう改良された。現在は発現ベクター、CRISPRキャリアなど多彩な派生型が存在する。遺伝子工学のワークホースと呼ばれる。

発現系

外来遺伝子を導入し、目的タンパク質を細胞に作らせる仕組み。大腸菌、酵母、昆虫細胞、哺乳類細胞など多彩なホストが利用される。組換えDNA技術が確立したことで、インスリンなどの医薬品を大量生産できるようになった。発現効率や翻訳後修飾の制御が研究の焦点となっている。バイオ産業の根幹を支える技術領域である。

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