1993年ノーベル化学賞(2)

受賞理由

DNA化学での手法開発への貢献(オリゴヌクレオチドによる部位特異的突然変異法の確立およびそのタンパク質研究への発展に対する基礎的貢献)

受賞者

マイケル・スミス
マイケル・スミス

カナダカナダ

解説

私たちの体の設計図であるDNAの文字を、好きなところで1文字だけ書きかえられたらどうなるでしょう? マイケル・スミスさんは、DNAのある場所をねらってちょこっと変える方法を作りました。これにより、科学者は「もしここの文字が変わったらタンパク質はどう変わるかな?」と実験できるようになりました。たとえば、暗号の1文字を変えると意味が変わるのと同じです。この方法は、病気の原因を探したり、新しいおくすりタンパク質を作ったりするのに役立っています。DNAの“編集”を初めて可能にした、重要な技術です。

関連キーワード

部位特異的突然変異導入

DNAの特定部位に設計した変異を導入する技術。合成オリゴヌクレオチドを利用し、一塩基から複数塩基まで自由に置換・挿入・欠失できる。タンパク質機能解析、酵素改変、遺伝性疾患モデル作製などに不可欠。PCRやファージベクターを利用した方法が主流。近年はCRISPRと組み合わせたin cellulo修飾も普及。分子設計から機能検証までのワークフローを大幅に短縮した。

オリゴヌクレオチド

数十塩基程度の短い一本鎖DNAまたはRNA。化学合成が容易で配列を自由に設計できる。プライマー、プローブ、siRNA、ASOなど多用途。変異導入ではミスマッチを含む配列を作ることで標的塩基を置換。修飾化学(ホスホロチオエート、PEG化など)により安定性や細胞内導入効率を調節できる。医薬品や診断薬としての開発も進む。

タンパク質工学

タンパク質のアミノ酸配列を改変して機能や安定性を向上させる学問分野。部位特異的突然変異導入は構造–機能相関の解析や酵素最適化の基本ツール。合理的設計と指向性進化という2大アプローチがあり、前者は計算化学を、後者はランダム変異とスクリーニングを活用。医薬、産業触媒、バイオセンシングなど応用は多岐。近年はAIが配列予測を補助し、設計ループが高速化した。

クイックチェンジPCR

双方向プライマーで円環DNAを増幅し、制限酵素DpnIで鋳型メチル化DNAを除去するPCR型変異導入法。シンプルなワンチューブ反応で高効率。高忠実度ポリメラーゼと長めのプライマー設計が成功率を左右。マルチサイト変異やインサート追加バージョンも存在。商用キット化され広く普及。バックグラウンドを抑えるための競合プライマー設計アルゴリズムが研究されている。

指向性進化

ランダムまたは半ランダムな遺伝子多様化とスクリーニング/セレクションを組み合わせ、望ましいタンパク質機能を獲得する手法。部位特異的突然変異導入はライブラリの“局所探索”に用いられ、進化速度を最適化する。ノーベル化学賞2018(フランシス・アーノルド)で注目。酵素耐熱化、基質特異性変更、光反応性制御など成果多数。AIと自動化でハイスループット化が進む。

CRISPR-HDR

CRISPR-CasシステムでDNAを切断し、相同組換え修復(HDR)を利用して外来配列や点変異を導入する方法。一本鎖オリゴ(ssODN)をドナーとして用いることで高効率の精密編集が可能。細胞周期依存性やp53応答活性化が課題。化学修飾オリゴや小分子HDR促進剤で効率改善が進む。部位特異的突然変異導入をin vivoで実現する次世代技術として期待。

同年の他の受賞業績