1995年ノーベル化学賞
受賞理由
大気化学、特にオゾンの生成と分解に関する研究
受賞者
オランダ
アメリカ合衆国
アメリカ合衆国
解説
地球をぐるっと包む空気の中には「オゾン層」というバリアがあり、強い紫外線から私たちを守ってくれます。でも、スプレーや冷蔵庫に使われていたガスがオゾン層をこわしていることが分かりました。クルッツェンさん、モリーナさん、ローランドさんは、そのしくみを調べて世界に知らせました。彼らのおかげで、人類はオゾン層を守る大切さに気づきました。今ではみんなで協力して、オゾン層をこわすガスを減らす取り組みが進んでいます。
関連キーワード
オゾン層
成層圏の高度約15〜35kmに集中するO3の層で、太陽のUV-Bを吸収して地表の生物を守る。濃度は Dobson 単位で評価され、季節・緯度によって変動する。1970年代後半に南極上空で急減が観測され、オゾンホールと呼ばれる現象が知られるようになった。オゾン層の健全性は気候システムや生態系、人体健康に密接に関わるため、国際的な監視ネットワークが構築されている。近年は回復傾向が見られるが、予測には温室効果ガスとの相互作用も考慮する必要がある。
フロン
炭素とフッ素、塩素からなる人工化合物で、冷媒・発泡剤・エアロゾル推進剤として広く使用された。対流圏では化学的に不活性だが、成層圏で紫外線により分解し塩素ラジカルを生成してオゾンを破壊する。大気寿命が数十〜百年以上と長く、全球に均一分布する特徴を持つ。モントリオール議定書により生産・使用が段階的に禁止され、代替物質(HCFC、HFC、自然冷媒)へ移行が進んだ。一部の代替物は温室効果が強いため、長期的にはさらなる代替技術の開発が課題となっている。
塩素ラジカル
未対電子を持つ反応性の高い塩素原子で、CFCやClONO2の光分解・異性化で生成する。Cl• はO3と高速に反応しClOを形成、さらにClOとOまたはClO同士の反応を経て再びCl•に戻る触媒サイクルを構成する。1個のCl•が数十万個のオゾン分子を連鎖的に破壊できることが問題となった。極域ではPSC表面でのヘテロ反応により塩素が活性化し、春の光復帰とともに大量のCl•が放出されオゾンホールが拡大する。最近の観測でも、塩素負荷の減少に伴いClOカラム量が緩やかに減少傾向を示している。
成層圏
大気圏の対流圏の上、約10〜50kmに位置する層で、気温が高度とともに上昇する逆転層を特徴とする。オゾンの光化学反応が支配的で、上部は紫外線吸収による加熱で温度が高い。気象学的にはブリューワー・ドブソン循環が卓越し、物質の鉛直・緯度輸送を制御する。温室効果ガスや火山噴火が成層圏温度と化学組成に影響を与え、オゾン層の回復にもフィードバックを生じさせる。航空機運航や通信衛星の設計にも関連するため、広範な研究が行われている。
オゾンホール
主に南極上空の春季に観測される総オゾン量の極端な減少領域で、1985年にブリティッシュ・南極調査隊が発見した。極夜で形成される極成層圏雲がClONO2やHClを表面反応で活性化塩素に変換し、日の出後に急激なオゾン破壊が起こる。オゾンホールは紫外線強度を増大させ、皮膚がんや眼病のリスクを高めるため、地上観測(Dobson, Brewer)と衛星観測(TOMS, OMI)が常時監視している。近年のデータではフロン規制に伴い穴の深さと面積が緩やかに縮小しつつあるが、一部の年では寒冷条件により再拡大がみられる。北極でも条件がそろうと類似の大規模破壊が発生しうることが示されている。
光化学反応
光(主に紫外線)の吸収によって分子が励起され、化学反応が進行するプロセス。大気ではO2 → O + OやCFC → Cl + ラジカルなどが代表例で、成層圏オゾン生成・破壊サイクルの駆動力となる。反応は波長依存性があり、光吸収断面積と量子収率が重要なパラメータとなる。衛星リモートセンシングではこの波長依存性を利用し、オゾンやエアロゾルの鉛直分布を推定する。光化学メカニズムは都市スモッグや気候の光学特性評価にも応用され、多方面の環境解析に不可欠である。
モントリオール議定書
1987年に採択された国際環境条約で、オゾン層を破壊する物質(ODS)の段階的削減・廃止を義務づけた。締約国はCFC、ハロン、四塩化炭素などの生産と消費をスケジュールに従って削減し、議定書は何度も改正されて対象物質と規制強度が拡大された。遵守率が高く、国連環境計画から最も成功した環境協定の一つと評価される。規制により大気中塩素・臭素負荷は減少に転じ、21世紀中頃にはオゾン層が1980年レベルへ回復すると予測されている。2016年のキガリ改正では高GWPのHFCも温暖化対策として制限対象に加えられた。