1998年ノーベル化学賞(1)
受賞理由
密度汎関数法の開発
受賞者
アメリカ合衆国
解説
目に見えない電子は物質の性質を決める大切な粒です。しかし電子を一つずつ数えるのは大変です。ウォルター・コーンさんは電子がどこにどれくらい集まっているかという“濃さ”だけを調べれば性質が分かると考えました。これを密度汎関数法といいます。雲の濃い所を見ると雨が降りそうか分かるように、電子の濃い所を調べると金属かどうかなどが分かります。この方法で新しい電池や薬の材料もコンピューターの中で試せるようになりました。
関連キーワード
密度汎関数法
電子密度のみを基礎変数とする量子化学・計算物性の理論。ホーヘンベルク・コーン定理とコーン・シャム方程式で構成される。計算コストが低く数千原子系にも適用でき、新材料探索を高速化した。交換相関汎関数の精度が最終結果を左右し、現在も改良が続く。
電子密度
ある場所に平均してどれだけ電子が存在するかを示す量ρ(r)。DFTではこれがすべての基礎情報となる。実験ではX線散乱や変位電荷測定で観測可能。電荷密度分布から化学結合や欠陥状態を可視化できる。
交換相関エネルギー
電子の量子力学的交換効果と相関運動をまとめて表すDFTの最難関項。厳密形は未知であり、多彩な近似(LDA,GGA,ハイブリッド,meta-GGA)が提案されている。精度とコストの両立が研究課題。
クーロン相互作用
同符号の電荷が反発し異符号が引き合う静電的力。電子間のクーロン反発は物性を決める主因の一つで、DFTでもハートリー項として明示的に計算される。遮蔽効果や誘電率が有効強度を左右する。
バンド構造
固体内の電子エネルギーと波数の関係を示す図。DFT計算で得られ、金属・半導体・絶縁体の区別や有効質量の評価に用いられる。ギャップの過小評価はDFTの代表的課題で、GW補正が併用されることも多い。
計算材料科学
コンピューターを使って物質の構造・性質を予測する学際領域。DFTは基盤手法として高通量計算データベースやマテリアルズ・インフォマティクスを支える。シミュレーション結果は実験の指針となり研究開発の時間短縮に寄与する。