2001年ノーベル化学賞(1)

受賞理由

不斉触媒による水素化反応の研究

受賞者

ウィリアム・ノールズ

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

野依良治
野依良治

日本日本

解説

化学の世界では、分子が右手と左手のように重ね合わせられない形をもつことを「キラリティー」といいます。お薬を作るときには、この右手型と左手型をきちんと分けないと効き目や安全性が変わってしまいます。ウィリアム・ノールズさんと野依良治さんは、「触媒」という助っ人分子を使い、右手型だけを一気に作る方法を見つけました。この方法は水素ガスを分子にくっつける“水素化”という反応を、とても上手にコントロールします。そのおかげで、パーキンソン病治療薬L-DOPAなどを効率よく安全に作れるようになりました。

関連キーワード

キラリティー

キラリティーは鏡像と重ね合わせられない立体構造を指し、右手と左手の違いに例えられます。生体分子の多くは一方のエナンチオマーのみを使用するため、薬効や香り、味などが大きく変わります。不斉合成では、目的とするエナンチオマーを優先的に作り出す技術が不可欠です。不斉水素化はキラル触媒を用いて高選択的に水素を導入し、キラリティーを創出します。医薬・農薬・材料化学での応用が急速に広がり、サステナブル化学の鍵概念となっています。

エナンチオマー過剰率

エナンチオマー過剰率(ee)は、2つの鏡像体の量的差を示す指標で、100%なら完全に片方だけ存在する状態です。高いeeは、薬として望ましい効果を最大化し副作用のリスクを低減します。ノールズや野依の触媒は97–100% eeを達成し、工業的にも十分な純度を提供しました。eeは旋光度測定やHPLCなどで解析され、触媒開発の性能評価に欠かせません。近年は機械学習でeeを予測する研究も進んでいます。

DiPAMP-ロジウム触媒

DiPAMPはホスフィン部位が2つ結合したキラル配位子で、ロジウム(I)と錯形成して初めて高効率な不斉水素化触媒となります。分子内のP-Rh-P角と立体障害が反応遷移状態を選択的に安定化させ、L-DOPA前駆体などで97%を超えるeeを達成しました。工業規模のプロセスでも反応速度と耐久性に優れ、世界初の不斉触媒量産ルートを実現した点で歴史的意義があります。現在は類似構造のホスフィン配位子が多数開発され、医薬原料や香料の合成に応用されています。DiPAMPは不斉触媒設計の礎となる“プロトタイプ配位子”として教科書にも掲載されています。

BINAP

BINAPは2,2'-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1'-ビナフチルの略称で、軸性キラリティーをもつ剛直な二芳香族配位子です。Ru(BINAP)系はカルボニルおよびイミンの不斉水素化など、幅広い基質に対応できる“汎用触媒”として知られています。立体選択性は、BINAPのねじれ角と電子供与性のバランスが遷移状態を強く制御することで生じます。Takasago社の不斉メントール法など複数の企業プロセスで実用化され、年間トンレベルの製造に寄与しています。近年はBINAP骨格を改変したSEGPHOSやDIFLUORPHOSなどへと発展し、さらに高性能な触媒設計が続いています。

L-DOPA

L-DOPA(3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン)はパーキンソン病治療に使われる必須医薬品です。従来法では多数の工程とラセミ分離が必要でしたが、ノールズの不斉水素化により工程が短縮し、廃棄物が大幅に減少しました。高純度L-DOPAは脳内ドーパミン不足を補う前駆体として働き、症状を緩和します。化学合成ルートが確立したことで、植物抽出に頼らない安定供給が可能になりました。現在もWHO必須医薬品リストに登録され、多くの患者の生活を支えています。

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