2013年ノーベル化学賞

受賞理由

複雑な化学系のためのマルチスケールモデルの開発

受賞者

マーティン・カープラス
マーティン・カープラス

アメリカ合衆国アメリカ合衆国, オーストリアオーストリア

マイケル・レヴィット
マイケル・レヴィット

アメリカ合衆国アメリカ合衆国, イギリスイギリス, イスラエルイスラエル

アリー・ウォーシェル
アリー・ウォーシェル

アメリカ合衆国アメリカ合衆国, イスラエルイスラエル

解説

化学反応はとても小さな原子や電子が動くことで起こりますが、目では見えません。カープラスさん、レヴィットさん、ウォーシェルさんは、コンピュータの中でこの見えない世界を再現する方法を考えました。難しいところは、原子がたくさんある大きな分子を速く計算しながら、電子の細かな動きも正しく調べることです。彼らは「大ざっぱに見る部分」と「細かく見る部分」をうまく組み合わせるルールを作りました。そのおかげで、薬づくりやエネルギー材料の研究がコンピュータ上でもっと簡単にできるようになりました。

関連キーワード

マルチスケールモデル

原子・分子系を複数の空間あるいは時間スケールに分け、それぞれ最適な物理法則で計算する手法。反応中心は量子力学、周辺は分子力学、遠方溶媒は連続体といった重ね合わせが典型例である。計算コストを抑えつつ高精度を保てるため、生体分子や材料科学への応用が急速に広がった。特に QM/MM 法は酵素機構解析や触媒設計のデファクトスタンダードとなり、多くの市販ソフトに実装されている。

量子力学/分子力学法 (QM/MM)

QM/MM は分子を二領域に分け、電子構造を要する部分を量子化学計算で、残りを古典的分子力学で扱うハイブリッド手法。境界処理にはリンク原子や局所化軌道が用いられ、全エネルギーを滑らかに接続する。1980年代以降、半経験的ハミルトニアンから密度汎関数理論まで多様な QM レベルが選択可能となった。最近はポーラライザブル力場や機械学習ポテンシャルとの組み合わせで精度がさらに向上している。

分子動力学シミュレーション

ニュートンの運動方程式を数値積分し、原子の位置と速度を時間発展させる計算手法。QM/MM と組み合わせると、反応途中の構造変化や熱雑音を含む自由エネルギー地形を追跡できる。温度制御アルゴリズムや長距離クーロン相互作用の高速計算が鍵で、近年は GPU で加速された。

酵素反応機構

生体触媒である酵素が基質を変換する過程の詳細なステップ。QM/MM により活性部位の電荷移動、プロトンシャトル、水分子の役割などを原子レベルで解析できる。得られた反応経路は阻害剤設計や遺伝子変異の効果予測に利用される。

ポテンシャルエネルギー面

原子核配置に対する系のエネルギーを表す多次元関数で、反応経路や遷移状態を決定する地図に相当する。QM/MM は高精度な局所 PES を効率的に求められるため、活性化エネルギーや生成物分布の定量予測が可能となる。トポロジー解析や反応経路追跡アルゴリズムと組み合わせて利用される。