2016年ノーベル化学賞

受賞理由

分子マシンの設計と合成

受賞者

ジャン=ピエール・ソヴァージュ
ジャン=ピエール・ソヴァージュ

フランスフランス

フレイザー・ストッダート
フレイザー・ストッダート

イギリスイギリス, アメリカ合衆国アメリカ合衆国

ベルナルト・L・フェリンハ
ベルナルト・L・フェリンハ

オランダオランダ

解説

レゴブロックでロボットを作るように、科学者たちはもっともっと小さな部品――分子――を使って機械を作りました。髪の毛の一万分の一より小さい世界で、輪っかや棒の形をした分子たちをつなぎ合わせ、動くおもちゃのように動かしました。リングが軸を行ったり来たりしたり、羽根車のようにクルクル回ったりします。この動きは光をあてたり熱をかけたりすると始まります。とても小さいけれど、将来は薬を運んだり、電気をためたりする仕事をしてくれるかもしれません。

関連キーワード

分子マシン

分子マシンは外部からエネルギーを受け取って決まった動きをする分子集合体です。リングの回転や位置移動、軸の伸縮などが代表的な動作です。生体のATP合成酵素などと同様、非平衡状態で仕事を行います。人工的に作られた分子マシンは光、電気、化学燃料など多様な入力を駆動源にできます。ナノメートルスケールで機能を実装できるため、医療やエレクトロニクスへの応用が期待されています。

カテナン

カテナンは輪状分子が鎖のようにリンクした構造で、機械的結合の典型例です。ソヴァージュは銅(I)イオンのテンプレート作用で高収率合成を実現しました。輪同士の回転自由度を利用してスイッチやモーターを設計できます。カテナンのサイズや組成を変えることで、光応答性や電位応答性など多彩な機能が付与されます。高分子や材料へ組み込む研究も進み、ストレス応答性ゲルなどへの応用が検討されています。

ロタキサン

ロタキサンは軸分子にリングが通り、軸端がストッパーで抜けない構造です。ストッダートはドナー・アクセプター相互作用で自己組織化させ、リングの位置を制御しました。リング移動はpH変化や電圧印加で迅速に切り替えられ、分子スイッチとなります。複数のロタキサンを組み合わせると論理回路やメモリー素子が構築できます。近年は生体適合型ロタキサンがドラッグデリバリー担体としても研究されています。

分子モーター

分子モーターは一方向の回転や直線運動を示し、連続的に仕事を行う分子機械です。フェリンハの光駆動モーターは光異性化と熱緩和を組み合わせて12MHz超の回転数を達成しました。モーターを面に多数固定すると、光を当てたときに表面がねじれるなどマクロな運動に変換できます。ナノカーや液晶駆動デバイスにも応用例があります。今後は化学燃料型や電気駆動型の開発が活発化しています。

機械的結合

機械的結合は原子間の電子共有ではなく、分子同士が物理的に絡み合って離れない状態を指します。カテナンやロタキサンが代表例で、トポロジーが化学的安定性をもたらします。機械的結合は可動部分を備えた分子設計を可能にし、従来の共有結合ベース化学では得られない動的機能が得られます。テンプレート自己組織化やクリック化学が合成に用いられ、高収率で多様な形が作られています。非共有性ゆえに刺激応答性を組み込みやすく、分子スイッチやソフトマテリアルに利用されています。

超分子化学

超分子化学は分子間相互作用による自己組織化や機能発現を扱う学問です。水素結合、πスタッキング、金属配位など弱い力を駆使して複雑な集合体を構築します。分子マシンは超分子化学の枠組みで理解され、外部刺激による可逆的動作が重要テーマです。ドラッグデリバリー、センシング、エネルギー変換など応用範囲が広がっています。ノーベル賞受賞研究は超分子化学が動的・機械的機能へ発展できることを示しました。