2022年ノーベル化学賞

受賞理由

クリックケミストリーと生体直交化学の開発

受賞者

キャロライン・ベルトッツィ
キャロライン・ベルトッツィ

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

モーテン・P・メルダル
モーテン・P・メルダル

デンマークデンマーク

バリー・シャープレス
バリー・シャープレス

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

解説

化学の世界には、レゴブロックのように「カチッ」とはまる部品を作る方法があります。これをクリックケミストリーと呼びます。むずかしい手順をいくつも使わなくても、分子どうしが簡単につながるのが特徴です。また、生きものの体の中でも安全に使える特別な反応も開発されました。これを生体直交化学といいます。お薬をぴったり病気の場所に届ける仕組みづくりなどに役立っています。三人の科学者は、この新しい道具箱を作ったことでノーベル賞をもらいました。

関連キーワード

クリックケミストリー

官能基許容性が高く、短時間でほぼ副生成物なく分子同士を結合できる合成概念。1990年代末にバリー・シャープレスが提唱し、以降医薬・材料・生化学へ急速に浸透した。分子が“カチッ”とつながるイメージから命名され、環境調和性やスケールアップ容易性が評価されている。高効率であるため廃棄物が少なく、グリーンケミストリーの模範例ともされる。

生体直交化学

生きた細胞や動物の中で自然の生化学反応を妨げずに選択的に進行する化学反応の総称。キャロライン・ベルトッツィが2000年前後に確立し、糖鎖やタンパク質の可視化、薬物送達、体内診断などに応用される。毒性が低く、水性環境で高速に進むことが必須条件とされる。SPAACやtetrazine-TCO反応など複数の反応系が開発されている。

アジド-アルキン環化付加

アジドとアルキンが[3+2]環化してトリアゾールを与える反応。銅(I)触媒型(CuAAC)と環ひずみ型(SPAAC)が主要バリエーションである。高い位置選択性と収率を示し、分子標識や高分子のカップリングに多用される。1990年代末~2000年代初頭にメルダルとシャープレスが独立に報告した。

銅触媒

Cu(I)イオンはアジドとアルキンを協奏的に活性化し、CuAAC反応を高速化する役割を果たす。配位子や溶媒により反応速度や生体適合性が大きく変化する。銅触媒は電子移動反応やカップリング反応にも広く応用される。

環ひずみ促進反応

シクロオクチンなど高ひずみアルキンを用い、金属触媒なしでアジドと高速環化する手法。生体直交性が高く、細胞内や動物個体での分子標識に適用される。エネルギー障壁をひずみエネルギーで賄う点が特徴である。

トリアゾール

CuAACやSPAACの生成物である五員環含窒素ヘテロ環。化学的に安定で水素結合やπスタッキングを形成できるため、医薬候補化合物や導電性材料の骨格として重要。トリアゾール置換は化合物の代謝耐性を高めることが多い。

糖鎖イメージング

細胞表面や組織内の糖鎖を蛍光分子などで可視化する技術。生体直交クリック反応を利用して、代謝導入されたアジド化糖を標識する方法が主流となった。がん診断や免疫応答解析の新手法として期待される。

抗体薬物複合体

抗体に細胞毒性薬物を共有結合させた精密医薬。クリック反応により特定部位へ薬物を導入できるため、標的特異性と安全性が向上する。現在複数のADCが臨床試験段階にある。

機能性高分子材料

光電変換、抗菌、自己修復などの機能を持つ高分子。ポリマー主鎖や側鎖にクリック可能な部位を組み込むことで、後工程で多様な機能分子を容易に付与できる。産業用コーティングやフレキシブル電子デバイスで実用化が進む。

グリーンケミストリー

環境負荷を最小化する化学の設計原則。クリックケミストリーは高原子効率、穏和な条件、水溶媒使用など多くの原則を満たすため、持続可能な合成法として評価されている。