1920年ノーベル物理学賞

受賞理由

インバー合金の発見とそれによる精密測定の開発

受賞者

シャルル・エドゥアール・ギヨーム
シャルル・エドゥアール・ギヨーム

スイススイス

解説

身近なものは温度が上がると膨らんだり、下がると縮んだりします。例えばガラスびんのふたが固いとき、お湯をかけると開けやすくなるのは金属がわずかに膨らむからです。ギヨームさんは「インバー」という特別な金属を見つけました。この金属は熱くなってもほとんど大きさが変わりません。そのおかげで、とても正確に長さをはかる定規や時計を作ることができるようになりました。私たちが使う世界共通の長さや時間のルールを支える大切な発見です。

関連キーワード

インバー合金

インバー合金は鉄を主成分とし、約35.5〜36.5重量%のニッケルを含む合金です。室温付近での線膨張係数が約0.5×10⁻⁶ K⁻¹と極めて小さいため、温度変化に対してほとんど伸び縮みしません。この性質は「インバー効果」と呼ばれ、磁気転移と格子振動の相殺によって説明されます。合金名は「変化しない」を意味するラテン語invariabilisに由来し、ギヨーム自身が命名しました。計量標準器、地球測量用巻尺、精密時計のテンプ、航空機機器の構成部材など多岐に応用されています。低膨張材料の代名詞として、現在でも先端科学実験や産業計測で重要な役割を担っています。

熱膨張係数

熱膨張係数(線膨張係数)は、物体が1度温度変化したときに単位長さ当たりどれだけ伸びるかを表す物理量です。単位はK⁻¹で示され、金属では通常10×10⁻⁶ K⁻¹程度の値を取ります。測定誤差や機械位置決め誤差の主な原因となるため、精密工学では最重要パラメータのひとつとされています。低膨張材料を選ぶ、恒温装置を使う、補償機構を設けるなど、様々な対策が開発されてきました。インバーの発見によって、材料選択そのものが補償策となる画期的な道が開かれました。現在でも半導体露光装置や重力波干渉計などでは、10⁻⁸ K⁻¹以下の超低膨張を目指す研究が続いています。

精密測定

精密測定は物理量を可能な限り小さな誤差で測定する科学と技術の総称です。標準器、測定法、環境制御、データ解析など多くの要素の最適化によって達成されます。長さや時間の精度の向上は、GPS、通信、基礎物理定数の決定など現代社会の基盤を支えています。ギヨームのインバー導入は温度による長さ変動という根源的な誤差要因を劇的に低減しました。これにより、光干渉計や地球測量の基線測定でマイクロメートル乃至サブマイクロメートルの精度が実現しました。今日の量子標準でも装置部材の安定化が重要であり、精密測定の概念は発展し続けています。

ニッケル鋼合金

ニッケル鋼合金は鉄を主体とし、ニッケルを数%から数十%含有する合金群を指します。ニッケルの添加によって強度、耐食性、磁性、膨張特性などが大きく変化します。インバーはその一種で、36%ニッケル付近で低膨張性を示す特異点が存在します。50%以上ニッケルを含む合金は高透磁率を示し、電磁シールドやトランスコアに利用されています。元素配分を微調整することでエランバー、コヴァー、42アロイといった機能特化材料が生み出されています。ニッケル鋼合金研究は材料設計の概念を拡大し、現代の高機能金属開発の原点の一つとなりました。

メートル原器

メートル原器は、かつて国際的な長さの基準として使われていた物理的な棒状標準器です。1889年に制定された白金イリジウム製の原器が国際度量衡委員会によって保管されていました。温度変化による伸縮を避けるため、保管温度は20 ℃で厳密に管理され、複製品との比較が行われました。インバー材の発見後、測定や運搬に用いる比較用標尺がインバーに置き換えられ、誤差が大幅に低減しました。1960年に光波長、2019年に光速度を用いた定義へと移行した後も、歴史的遺産としてメートル原器は保存されています。メートル原器の問題点とその改良は、計量学の進化を象徴するエピソードとなっています。