1928年ノーベル物理学賞
受賞理由
熱電子効果の研究、特に彼に因んで命名されたリチャードソンの法則の発見
受賞者
イギリス
解説
金属をとても熱くすると、中の電子が外へ飛び出すことがあります。この現象を「熱電子放出」といいます。リチャードソンは、温度と飛び出す電子の量の関係をくわしく調べ、その数が温度に応じて決まった増え方をすることを発見しました。この決まりは「リチャードソンの法則」と呼ばれ、真空管ラジオや電子顕微鏡など多くの機械の基礎になっています。身近なところでは、昔のテレビが光る仕組みもこの法則に支えられていました。
関連キーワード
熱電子放出
金属や半導体を高温に加熱すると、内部の電子が熱エネルギーで表面ポテンシャル障壁を乗り越え真空中へ放出される現象。電流の向きは外部回路で制御でき、真空管や電子銃のカソード源として用いられる。放出量は温度とワーク関数に大きく依存し、J=AT²exp(−φ/kT)で近似される。熱電子はエネルギー分布が広く、表面状態や酸化膜によって効率が変わる。現代でもX線管やイオンスラスタの基礎技術として不可欠である。
リチャードソンの法則
1901年に提案され、1912年に改良された熱電子放出の経験式。電流密度Jが温度Tの二乗に比例し、e^{-φ/kT}で指数減衰する形を取る。ワーク関数φは材料固有の値で、表面清浄度や吸着ガスによって変動する。定数Aはリチャードソン定数とも呼ばれ、自由電子モデルでは理論値が導かれるが、実測値は数桁の幅をもつことが多い。半導体やオキサイドカソードでも修正形が用いられ、電子源設計の極めて重要な指標となっている。
ワーク関数
固体内部のフェルミ準位にある電子が真空準位に達するために必要な最小エネルギー差。金属ごとに異なり、アルカリ金属では小さく、貴金属では大きい。表面吸着や酸化膜はポテンシャルを変化させ、ワーク関数の制御は電子放出効率に直結する。光電効果やショットキー効果でも決定的な役割を果たすため、表面科学の中心概念とされる。近年は有機分子被覆による低ワーク関数設計がディスプレイや太陽電池で研究されている。
真空管
内部を高真空にしたガラス管にカソードとアノードなど複数電極を配置した電子デバイス。熱電子放出を利用して電子を生成し、電圧で流れを制御する。20世紀前半にはラジオ、テレビ、レーダー、初期電子計算機の心臓部として不可欠だった。半導体トランジスタに置き換えられた後も、高出力送信機やマイクロ波帯のチューブでは現在も使われる。近年はオーディオ用真空管アンプが独特の音質で再評価されている。
電子銃
熱電子カソードなどから放出された電子を電界で集束・加速し、細いビームとして取り出す装置。CRTディスプレイや電子顕微鏡、加速器の注入源に不可欠。ビーム径やエネルギー分散はカソード材料、ワーク関数、レンズ電極設計に依存する。高輝度・長寿命を実現するため、バリウム酸化物やLaB6単結晶など低ワーク関数材料が開発された。次世代の自由電子レーザーでも、高品質電子銃が性能を左右する主要要素である。
リチャードソン定数
リチャードソンの法則における比例定数Aで、理論上は自由電子質量m、電子電荷e、ボルツマン定数k、プランク定数hによって4πm e k²/h³と表される。実際には表面粗さ、ディップ層、電子有効質量などで修正され、金属ごとに数十から数千A cm⁻² K⁻²の範囲をとる。定数の測定はカソード材料の表面状態診断にも利用される。低A値は表面汚染や酸化を示唆し、高安定カソード開発ではAとワーク関数の同時最適化が目標となる。半導体ショットキー接合の逆飽和電流解析でも有効なパラメータとして扱われる。