1937年ノーベル物理学賞

受賞理由

結晶による電子線回折現象の発見

受賞者

クリントン・デイヴィソン
クリントン・デイヴィソン

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

ジョージ・パジェット・トムソン
ジョージ・パジェット・トムソン

イギリスイギリス

解説

電子はとても小さな粒ですが、光のように波の顔も持っています。デイヴィソンさんとトムソンさんは、金属の結晶に電子を当てて波の模様ができるか調べました。すると、水面の波が橋げたで曲がるように、電子も決まった方向へ散らばることが分かりました。この現象を「回折」といい、電子が波である証拠になりました。今日の電子顕微鏡や半導体技術は、この発見が土台になっています。

関連キーワード

電子回折

電子ビームが結晶格子で干渉・散乱して生じる強度分布。X線回折と同様にブラッグ条件でピークが現れる。波長が短いため高い空間分解能を持ち、原子間距離や格子欠陥を精密に測定できる。低エネルギー領域では表面原子層の決定に用いられ、高エネルギーでは内部構造解析に適用される。半導体製造や材料評価で欠かせない手法である。

波動粒子二重性

光や電子などの微視的対象が、状況に応じて波としても粒子としても振る舞うという量子力学の基本概念。ヤングの二重スリット実験や電子回折が典型例。同一の対象が干渉縞を示す一方で、衝突により位置を点として記録できる。ド・ブロイによって一般化され、λ=h/pで関係づけられる。現代のナノテクノロジーや量子情報科学の理論的土台を提供する。

ド・ブロイ波長

運動量pを持つ粒子に対応するλ=h/pで与えられる波長。速度が速いほど波長は短くなり、より細かい構造を検出できる。電子顕微鏡の高分解能はこの短波長性に依存する。回折実験で測定したλが理論値に一致することは量子力学の実証となる。粒子加速器設計や中性子散乱研究にも不可欠なパラメータである。

ブラッグ条件

2d sin θ=nλで表される結晶面による回折の位相一致条件。dは格子間隔、θは入射・散乱角、nは整数。X線や電子回折でピークが現れる角度を予測する。未知の結晶構造を決定する逆解析にも利用される。デイヴィソンとトムソンの実験は電子がこの法則に従うことを示した。

結晶格子

原子やイオンが三次元的に周期配置された構造。格子定数や対称性は物質の物理的性質を決める。回折法で散乱ピークを解析することでd間隔や格子系を求められる。格子欠陥や応力の情報も回折線幅や位置ずれから得られる。半導体デバイスや合金開発で重要な概念である。

デイヴィソン=ガーマー実験

1927年に行われた電子回折の先駆的実験。加速電子をニッケル結晶に反射させゴニオメータで強度を測定し、波長と運動量の関係を検証した。偶然の真空装置破裂と再焼鈍による単結晶化が成功の鍵となった。得られたブラッグピークは電子の波動性を決定的に示した。ノーベル賞授与の直接の契機となった研究である。

トムソン電子回折

ジョージ・パジェット・トムソンが薄膜結晶を透過する電子線で得た回折法。蛍光板上に同心円リングが現れ、結晶面間隔を高精度で決定できる。透過型電子顕微鏡(TEM)の前身技術となった。多重散乱の少ない高エネルギー電子を用いるのが特徴。波動粒子二重性の証拠を独立に提供した。

量子力学

微視的世界を記述する物理学の理論体系。シュレディンガー方程式や行列力学で粒子の確率波動関数を扱う。電子回折はその基礎概念を実験的に裏づけた。量子力学は半導体、レーザー、MRIなど多くの技術を支える。確率解釈や不確定性原理が日常的直感と異なる点で興味深い。

電子顕微鏡

電子ビームで試料を照射し高倍率像を得る装置。短いド・ブロイ波長により光学顕微鏡を超えるナノメートル級分解能を実現する。透過型(TEM)と走査型(SEM)が代表的。電子回折像や元素分析(EDS)を組み合わせ複合情報を取得できる。デイヴィソンとトムソンの成果が技術的基盤となった。

ブリルアンゾーン

結晶の逆格子空間で第一周波数領域を定義する多面体。電子バンド構造やフォノン分散の計算に用いられる。回折条件は逆格子点への散乱と解釈でき、ブリルアンゾーン境界でゾーンフォールディングが起こる。電子回折データから対称点エネルギーを間接的に推定できることがある。固体物理の理論と実験をつなぐ重要概念である。