1952年ノーベル物理学賞
受賞理由
核磁気の精密な測定における新しい方法の開発とそれについての発見(Phys. Rev. 69(1946) 127, 70(1946) 460-474, 69(1946) 37-38, 73(1948) 679-712)
受賞者
スイス
アメリカ合衆国
解説
私たちの体や鉛筆、コップなどは、すべて小さな原子でできています。原子の真ん中にある原子核は、とても小さな磁石のようにふるまいます。フェリックス・ブロッホさんとエドワード・パーセルさんは、原子核を強い磁石の中に入れてラジオの電波を当てると、原子核がくるくる回って特別な合図を出すことを見つけました。その合図を受け取ると、その物質が何でできているかを調べることができます。この仕組みは、病院で体の中を写すMRIにも使われています。だから2人の発見は、科学の研究だけでなく、私たちの健康にも役立っています。
関連キーワード
核磁気共鳴
核磁気共鳴(NMR)は、外部磁場中に置かれた原子核が特定の周波数の電磁波を吸収・放出する現象です。吸収が起こる周波数は核種と磁場強度に依存するため、精密に測定することで物質組成を調べることができます。1946年にブロッホとパーセルが独立に観測し、ノーベル賞の対象となりました。現在では化学構造解析、タンパク質の立体構造決定、地質探査など幅広い分野で使用されています。また、医療画像装置MRIはNMRの原理を人体に応用した例です。
磁気モーメント
磁気モーメントは、物体がもつ小さな磁石としての性質を定量的に表す量です。原子核は陽子や中性子のスピンに由来する固有の磁気モーメントを持っています。ブロッホとパーセルの方法は、核磁気モーメントを従来よりも桁違いに高い精度で測定できるようにしました。精密値は核構造理論の検証や基礎定数の決定に利用されてきました。磁気モーメントの理解は、スピン物理や量子情報科学の発展にも直結しています。
ラーモア歳差
ラーモア歳差は、磁場中の磁気モーメントが磁力線のまわりを回転する運動です。歳差の角速度はγBで与えられ、ここでγは核の磁気回転比、Bは外部磁場強度です。ブロッホとパーセルは、このラーモア周波数を無線周波で励起し共鳴現象を検出しました。測定された周波数から核の特性が直接導かれるため、歳差運動はNMR実験の本質的要素となります。今日では磁場センサや原子時計など、多くの精密計測技術がラーモア歳差を利用しています。
ブロッホ方程式
ブロッホ方程式は、磁化ベクトルが時間とともにどのように変化するかを記述する運動方程式です。横緩和時間T2と縦緩和時間T1を導入して、エネルギー緩和と位相緩和の両方をモデル化します。この理論により、パルスNMRの信号強度やライン幅を定量的に予測できるようになりました。化学シフトやJ結合が加わると、方程式はさらに複雑になりますが、シミュレーションと最適化の基礎を提供します。MRIで用いられるパルスシーケンス設計も、ブロッホ方程式の数値解に大きく依存しています。
MRI
MRI(磁気共鳴画像法)は、NMRの原理を利用して生体内部を非侵襲的に可視化する技術です。人体中の水素原子核の信号を空間的に符号化し、コンピュータで再構成して断層画像を得ます。T1やT2の違いが組織ごとのコントラストを生み出し、がんや脳疾患の診断に有効です。造影剤や機能的MRI(fMRI)などの発展により、血流や代謝の変化も検出可能になりました。ブロッホとパーセルの基礎研究が、現代医療で欠かせないこの装置の礎となっています。