1957年ノーベル物理学賞
受賞理由
素粒子物理学における重要な発見に導いた、いわゆるパリティ法則の精密な研究(Phys. Rev. 104 (1956) 254-258、Phys. Rev. 106 (1957) 340-345、Phys. Rev. 105 (1957) 1413-1417 ほか)
受賞者
アメリカ合衆国
アメリカ合衆国
解説
私たちの世界を映す鏡を想像してください。右と左が入れ替わって見えますね。昔の科学者は、自然のきまりは鏡で見ても変わらないと信じていました。ところがヤン博士とリー博士は、弱い力という特別な力では右と左が同じでないかもしれないと考えました。その後の実験で、本当に『右利きと左利き』がはっきり分かれることが分かり、教科書を書き直す大発見となりました。
関連キーワード
パリティ
パリティとは空間座標を鏡映(x→−x など)したとき物理法則が不変かを問う対称性です。古典力学や電磁気学では保存され、長く普遍的と考えられていました。左右手系の違いを観測で区別できなければ対称性が成り立つことになります。1957年の実験で弱い相互作用では破れると判明し、対称性の概念を根底から揺さぶりました。現在はCP対称性やBaryon数など、より広い対称性研究へ発展しています。
弱い相互作用
弱い相互作用はβ崩壊やニュートリノ散乱を引き起こす基本力です。電磁気力よりはるかに弱く、非常に短い距離で働きます。パリティ破れが初めて発見された場でもあり、その理論的記述にはV–A形式が採用されます。ボソン媒介粒子としてW粒子とZ粒子が存在し、1970年代の実験で確認されました。弱い相互作用の性質はビッグバン元素合成や太陽エネルギー生成にも関わっています。
ベータ崩壊
ベータ崩壊は原子核が電子(または陽電子)と反ニュートリノ(またはニュートリノ)を放出して別の核種へ変わる現象です。弱い相互作用によって起こり、核内の中性子が陽子に変換される場合が典型例です。1957年のコバルト60実験では電子の放出方向の偏りが測定され、パリティ破れの決定的証拠となりました。電子の運動量と核スピンの相関が左向きに偏っていたのです。ベータ崩壊は放射線治療や年代測定にも応用されています。
コバルト60
コバルト60は半減期約5.27年の放射性同位体でβ崩壊を行います。核スピンが5/2で大きく、極低温・強磁場中で容易に配向できるため実験に適しています。ウーらの実験では極低温の塩化コバルト結晶中にCo60を埋め込み、磁場で核スピンを整列させました。電子放出方向の統計を取ることでパリティ破れが直接観測されました。今日も放射線源や医療用ガンマ線源として広く利用されています。
パイ中間子崩壊
パイ中間子(π)は最も軽い中間子で、主にμ中間子とニュートリノに崩壊します。この崩壊でも弱い相互作用が働き、生成粒子のスピンと運動量の向きにパリティ破れが現れます。Garwin・Ledermanらの連鎖崩壊実験はπ→μ→e の2段階を測定し、電子の角度分布からV–A構造を支持しました。パイ中間子は陽子・中性子間の核力にも関係し、量子色力学のテストに用いられます。現代のニュートリノビーム生成装置でもパイ崩壊が重要な役割を果たします。
対称性の破れ
物理法則がある変換で不変でなくなる現象を対称性の破れと呼びます。パリティ破れはその代表例で、自然界が左右を区別することを示しました。のちにCPやTの破れも発見され、宇宙に物質が多く残った理由を説明する鍵とされています。対称性の破れは素粒子だけでなく、超伝導や液晶など凝縮系でも重要な概念です。群論と場の理論を結びつける基本原理として物理学全体に深い影響を与えています。
CP対称性
CP対称性は荷電共役(C)とパリティ(P)を同時に行ったときの不変性です。弱い相互作用ではPが破れますがCPはほぼ保たれると考えられていました。1964年の中性K中間子の研究でわずかなCP破れが観測され、素粒子の標準模型に新たな位相を導入する契機となりました。CP破れは宇宙のバリオン数非対称の条件に含まれ、宇宙論と深く結びついています。現在もB中間子やニュートリノでのCP破れ測定が精力的に行われています。
標準模型
標準模型は電磁気力・弱い力・強い力を統合的に記述する量子場理論です。ヤンとリーの研究はモデル構築過程で弱い相互作用におけるV–A構造という土台を提供しました。SU(2)×U(1) のゲージ理論により電弱統一を達成し、W・Zボソンの質量生成にはヒッグス機構が導入されます。現在まで多くの予言を実験が支持し、高エネルギー物理の基礎枠組みとなっています。しかし重力との統合や暗黒物質の説明は依然として未解決で、Beyond-Standard-Model 研究が活発です。