1959年ノーベル物理学賞

受賞理由

反陽子の発見(Phys. Rev. 100 (1955) 947-950)

受賞者

エミリオ・セグレ
エミリオ・セグレ

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

オーウェン・チェンバレン
オーウェン・チェンバレン

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

解説

私たちが知っている物質を作る粒子には「陽子」があります。1955年、セグレさんとチェンバレンさんは陽子と正反対の電気を持つ「反陽子」を実験で見つけました。反陽子は陽子と同じ重さですが、電気の向きが逆です。見つけるために、とても強い機械で粒子を高速でぶつけました。反陽子はふつうの物質と出会うとパッと消えてエネルギーに変わります。この発見は、世界のしくみをもっと深く知るための大きな一歩になりました。

関連キーワード

反陽子

陽子の反粒子で、質量は同じだが電荷が負。発見により物質と反物質が対をなすという理論を実証した。反陽子は陽子と遭遇すると対消滅し、エネルギー(主にガンマ線)を放出する。現在はビームとして生成・蓄積され、量子電磁力学の高精度検証や重力下での振る舞い測定に利用される。医療応用として反陽子線治療も研究中である。

反物質

各素粒子に対応する電荷が逆の粒子をまとめて反物質と呼ぶ。ビッグバン後に物質が優勢になった理由は未解明で、CP対称性破れが鍵と考えられる。反陽子の発見は宇宙における物質・反物質非対称性の研究を可能にした。現在、国際宇宙ステーションのAMS-02 は宇宙線中の反物質を探索している。反物質はPET診断や基本対称性の実験にも利用される。

粒子加速器

荷電粒子を電磁場で高エネルギーまで加速する装置。ベヴァトロンやサイクロトロンは円形軌道でビームを循環させる方式を採用する。高エネルギーが得られると新しい粒子生成の閾値を超えることができ、反陽子発見のような成果が生まれる。現在の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)は7 TeV/束まで陽子を加速し、ヒッグス粒子の発見を達成した。加速器技術は医療用放射線治療や材料科学にも応用される。

泡箱

過熱した液体中を粒子が通過すると気泡が連続して発生し、その飛跡を写真に撮る検出器。反陽子を含む荷電粒子の運動量や電荷符号を可視化でき、磁場中での曲率から質量測定が可能。1950年代から1970年代にかけて高エネルギー物理の主力検出器で、多くの粒子発見に貢献した。現在はシリコンストリップやTPCなどデジタル検出器に置き換えられたが、教育目的で使用されることもある。

電荷共役対称性

電荷共役(C)変換は粒子を反粒子に置き換える操作で、基本方程式がC対称なら物理法則は電荷の符号を反転しても不変となる。反陽子発見は強い相互作用がC対称であることを実証した。弱い相互作用ではC対称性が破れており、CP対称の破れと合わせて宇宙の物質優勢を説明する手がかりとなる。実験ではC対称性の検証に陽子・反陽子の断面比較や光子崩壊過程の測定が用いられる。

対消滅

粒子とその反粒子が出会うと相互作用して質量がエネルギーに完全変換される過程を対消滅と呼ぶ。反陽子と陽子の対消滅では複数のπ中間子や高エネルギーγ線が生成される。対消滅はE=mc²を直接示す現象で、PET装置では陽電子と電子の対消滅から出る511 keV γ線を検出する。加速器実験では対消滅断面の測定がハドロンダイナミクスの理解に不可欠。宇宙線中の対消滅信号は暗黒物質探索の手がかりにもなる。