1972年ノーベル物理学賞

受賞理由

一般にBCS理論と呼ばれている、彼らが共同で発展させた超伝導についての理論(Phys. Rev. 108, 1175-1204, 1957)

受賞者

ジョン・バーディーン
ジョン・バーディーン

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

レオン・クーパー
レオン・クーパー

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

ジョン・ロバート・シュリーファー

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

解説

電気を流すと、普通の線では少しずつエネルギーが熱になって失われます。でも材料をとても冷たくすると、抵抗がゼロになって電気が止まらずに流れ続ける「超伝導」という現象が起こります。バーディーンさん、クーパーさん、シュリーファーさんの3人は、その理由を初めてうまく説明しました。彼らは電子が2つずつなかよく手をつなぐように「ペア」を作り、氷の上を滑るようにスムーズに動くと考えました。この考えは『BCS理論』と呼ばれ、列車を浮かせる磁石や強い医療用MRIのしくみなどに役立っています。3人の発見は、電気をむだなく使える未来への大きなヒントになりました。

関連キーワード

超伝導

電気抵抗が完全にゼロになり、内部磁場が排斥される現象。1911年にヘイケ・カメルリング・オネスによって水銀で発見された。臨界温度以下でのみ起こり、磁気浮上、MRI、粒子加速器など多用途に利用される。電力損失のない送電や高速計測への応用が期待され、材料科学と低温物理の研究対象となり続けている。近年は常温高圧下での水素化物超伝導も注目を集める。

BCS理論

バーディーン・クーパー・シュリーファーが1957年に提唱した超伝導の微視的理論。電子–フォノン相互作用で生じる引力により、電子がクーパー対を作りボース凝縮することで抵抗ゼロが実現すると説明する。エネルギーギャップ、マイスナー効果、熱容量異常など多くの実験事実を統一的に理解できる。臨界温度や臨界磁場を定量的に予測する点も大きな強み。後に強結合Eliashberg理論や非従来型対称性研究へ発展した。

クーパー対

フォノンを介したわずかな引力によって、運動量が反対向きの2個の電子が結合した量子状態。単独の電子とは異なり、対は整数スピンを持つためボース粒子として振る舞い、巨視的に同一の量子状態に凝縮できる。クーパー対の形成がエネルギーギャップを生み、散乱を抑えることで抵抗を消す。対の大きさ(コヒーレンス長)は通常数百ナノメートルに及ぶ。対破壊は臨界温度や強磁場で起こり、超伝導の消失につながる。

臨界温度

材料が超伝導状態から常伝導状態に転移する温度。BCS理論ではフォノンエネルギーと電子密度状態から計算でき、元素ごとに異なる。高い臨界温度を持つ材料は冷却コストを下げるため技術的価値が高い。1986年にセラミック銅酸化物で液体窒素温度を超えるTcが発見され研究が加速した。現在は室温超伝導の可能性を求め高圧水素化物やニッケル酸化物などが注目されている。

ギャップエネルギー

超伝導状態の電子励起スペクトルに現れるΔと呼ばれる最小エネルギー差。ギャップが存在するため低温では熱励起が抑えられ、電気抵抗や熱伝導がほぼゼロになる。ギャップの大きさはBCS理論で2Δ ≈ 3.52 kBTc と予測され、トンネル分光や角度分解光電子分光で測定できる。ギャップ対称性はs波、d波などペアリング機構の手がかりを与える。温度・磁場・不純物の影響でギャップは変化し、これがデバイス特性に直結する。

電子フォノン相互作用

電子が格子振動(フォノン)を吸収・放出することで有効的に他の電子と引力を感じる過程。BCS超伝導のペアリングメカニズムの核心であり、引力はおよそフェムト秒スケールで作用する。相互作用の強さはエリアシシェルグ関数α²F(ω)で特徴づけられ、第一原理計算で評価可能。金属だけでなく、炭素系、二次元材料でも重要な役割を果たす。強い電子–フォノン結合はポロロン形成や電荷密度波につながることもある。

マイスナー効果

超伝導体が臨界温度以下で外部磁場を排斥し、内部磁束密度がゼロになる現象。1933年ヴァルター・マイスナーらにより発見され、超伝導が完全導体とは異なることを示した。ロンドン方程式で定式化され、磁束侵入深さλは材料ごとに異なる重要パラメータ。磁気浮上リニアモーターカーや磁気遮蔽に応用される。タイプII超伝導体では高磁場下で部分的に磁束が侵入し、渦糸格子状態を形成する。

臨界磁場

超伝導が破壊され常伝導に戻る境界磁場。タイプI超伝導体では単一の Hc、タイプIIでは下部 Hc1 と上部 Hc2 の2段階が定義される。Hc2 はコヒーレンス長ξとλで約 Bc2 ≈ Φ0 /(2πξ²) と関係し、高性能磁石の材料選択指標となる。高臨界磁場材料は核磁気共鳴や粒子加速器の高磁場コイルに不可欠。温度上昇や不純物によって臨界磁場は低下する。

協力現象

多くの粒子が相互作用し、単独では見られない秩序や機能が自発的に生じる現象。超伝導ではクーパー対凝縮がその代表例で、スピン系では強磁性、統計物理では相転移が該当する。協力現象は臨界現象・対称性の破れ・スケーリング則などの研究対象となり、物性から生物・社会モデルまで広く応用される。BCS理論は量子論的協力現象がマクロな物性を決定する好例。相互作用のわずかな違いが巨視的性質を大きく変える点が興味深い。

量子力学

原子や電子など微視的世界を支配する物理学の理論体系。波動関数、重ね合わせ、エンタングルメントなど独特の概念を持つ。超伝導現象は量子力学的整合状態が巨視的スケールに拡大した例であり、BCS理論はその成功例となった。量子力学は半導体、レーザー、トランジスタなど現代技術の基礎を提供し、現在は量子コンピュータや量子通信の開発に不可欠。観測問題や解釈論もなお活発に議論されている。