1980年ノーベル物理学賞

受賞理由

中性K中間子崩壊における基礎的な対称性の破れの発見

受賞者

ジェイムズ・クローニン
ジェイムズ・クローニン

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

ヴァル・フィッチ
ヴァル・フィッチ

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

解説

とても小さな粒の一種である『中性K中間子』は、時間がたつと別の粒に分かれます。クローニンさんとフィッチさんは、この壊れ方を世界で初めて細かく調べました。すると、鏡に写したりプラスとマイナスを入れ替えたりしても同じになるはずのルールが、実は破れていることが分かったのです。これは、左足で蹴ると入るのに右足では入らないサッカーゴールを見つけたような驚きでした。この発見は、宇宙に私たちの物質が多くて反物質が少ない理由を探る大切な手がかりになりました。

関連キーワード

CP対称性

電荷を反転させる操作(C)と空間を鏡映する操作(P)を同時に行っても物理法則が不変である、という仮定。かつては強い・弱い・電磁相互作用のいずれにも成り立つと考えられていたが、中性K中間子崩壊で破れが確認された。CPが破れると物質と反物質の性質に差が生じ、宇宙の物質優勢を説明する手がかりとなる。

CP破れ

CP対称性が完全には成り立たない現象を指し、クローニンとフィッチの実験が歴史上初めてその確かな証拠を与えた。間接CP破れ(ε)と直接CP破れ(ε′)の2種類があり、ともに標準模型のCKM行列の複素位相によって説明される。宇宙論のバリオジェネシスや新物理探索でも重要な役割を果たす。

中性K中間子

ダウンクォークとストレンジ反クォークからなるK0と、その反粒子\u0304K0の総称。弱相互作用により混合し、短寿命(KS)と長寿命(KL)という固有状態を形成する。中性K系はフレーバー物理とCP破れ研究の原点ともいえる。

K0-\u0304K0混合

弱相互作用がフレーバーを変えることでK0と\u0304K0が時間とともに振動する現象。質量差Δmと減衰幅差ΔΓが測定可能で、CP破れパラメータεと密接に関係する。他のメソン(B0, D0)やニュートリノ振動の解析手法の雛形にもなった。

CKM行列

クォークのフレーバーを混合させる3×3のユニタリ行列。クローニンとフィッチの結果は、この行列に複素位相が存在することを示唆し、CP破れの理論的枠組みを提供した。ユニタリ三角形の面積に比例するJarlskog不変量がCP破れの尺度となる。

バリオジェネシス

ビッグバン直後に物質が反物質より多く残った理由を説明する理論。サハロフ条件の一つとしてCP破れが必要であり、K中間子系の結果が重要な実験的裏付けとなった。現在は電弱相転移やニュートリノ領域でのLeptogenesisと合わせて活発に研究されている。

パリティ

空間座標の符号を反転させる操作。弱相互作用では既に破れていることが1950年代に確認されていたが、パリティと電荷共役を組み合わせたCP対称性は保存されると当時は信じられていた。K中間子の研究によりその考えが覆った。

2π崩壊

中性K中間子が2個のπ中間子に崩壊する過程。CPが保存されると長寿命KL状態では禁止されるはずだが、実験ではごく小さいが有限の確率で観測された。これが間接CP破れの最初の証拠となった。