1988年ノーベル物理学賞
受賞理由
ニュートリノビーム法、およびミューニュートリノの発見によるレプトンの二重構造の実証
受賞者
アメリカ合衆国
アメリカ合衆国
アメリカ合衆国
解説
私たちの体や物を作る原子の中には「粒子」というとても小さなかけらがあります。ニュートリノはその中でもほとんど重さがなく、光のようにすり抜けてしまう不思議な粒子です。1988年のノーベル賞を取った3人の科学者は、巨大な実験装置でニュートリノの「ビーム」を作り出すことに成功しました。彼らはそのビームの中に、電子と仲良しではない特別な仲間「ミューニュートリノ」がいることを見つけました。これは同じ種類だと思われていたニュートリノが、実は2種類あることを示した大発見でした。まるで見た目が同じジュースでも、飲んでみると味が二つに分かれると気づいたようなものです。こうした発見は、星が光る仕組みや宇宙の歴史を解く大きなヒントになっています。
関連キーワード
ニュートリノ
ニュートリノは電荷を持たず質量がごくわずかな基本粒子である。光に近い速さで飛び、物質とめったに相互作用しないため「幽霊粒子」とも呼ばれる。太陽や超新星、宇宙線、原子炉で大量に生成され、1秒間に数十兆個が私たちの体を通り抜けている。1930年にパウリがβ崩壊のエネルギー保存を説明するために仮定し、1956年にレインズとカワンによって初めて検出された。ニュートリノ研究は素粒子物理学の標準模型検証だけでなく、天体内部のプロセスを探るニュートリノ天文学としても重要である。
ミューニュートリノ
ミューニュートリノはミュー粒子と対になる第2世代レプトンのニュートリノである。1962年にレーダーマンらのビーム実験によって電子型とは異なる存在が確定した。弱い相互作用で生成される際、必ずミュー粒子を伴うことが特徴である。ニュートリノ振動ではτ型や電子型とフレーバー変換を起こし、その確率はPMNS行列要素で決まる。現在の長基線実験や大気ニュートリノ観測でミューニュートリノの減衰パターンが精密に測定されている。
ニュートリノビーム
ニュートリノビームは加速器で生成したπ±やK±を崩壊させることで得られる指向性の強いニュートリノ流である。鉄やコンクリートの遮蔽材を通して不要なハドロンやミュー粒子を減衰させることで純度を高める。磁気フォーカシングホーンを用いると所望のエネルギー帯の二次粒子を集束できる。ビームのフレーバー組成やエネルギースペクトルはハドロプロダクションデータとモンテカルロで精密に予測される。長基線振動実験や交差断面測定に欠かせない実験手法となっている。
レプトンの二重構造
レプトンの二重構造とは、弱い相互作用においてレプトンが荷電粒子と対応する中性ニュートリノの2成分で表されることを指す。電子と電子ニュートリノ、ミュー粒子とミューニュートリノが代表的な対である。SU(2)_L×U(1)_Yの電弱理論ではそれぞれが左巻き二重項を形成し、Wボソンとの相互作用を規定する。1988年の受賞研究は、この構造が実験的に正しいことを示した最初の決定的な証拠を提供した。その後タウレプトンが追加され、現在は3世代の二重項が標準模型を構成している。
弱い相互作用
弱い相互作用はβ崩壊やニュートリノ反応を媒介する基本力で、WボソンとZボソンが担い手である。電荷とフレーバーを変えることができるため、素粒子の世代間変換を引き起こす。相互作用の強さは短距離では電磁力に匹敵するが、媒介粒子が重いため実験的にはきわめて稀な事象となる。V−A構造やパリティ非保存が特徴で、宇宙の元素合成や太陽エネルギー生成にも関与する。ニュートリノビーム実験は弱い相互作用の性質を測定する最前線の手法である。
粒子加速器
粒子加速器は電場を用いて荷電粒子を高エネルギーまで加速し、衝突や崩壊過程を調べる施設である。シンクロトロンやリニアックなどさまざまな形式が存在し、医療や材料研究にも応用される。レーダーマンらの実験ではブルックヘブンのAGSシンクロトロンが利用され、当時世界最高クラスの24GeV陽子ビームを提供した。高エネルギービームはπやKを大量に生成し、そこからニュートリノビームを作る源となった。今日のLHCやJ-PARCなども同じ原理で動作し、新粒子探索や精密測定を支えている。