1991年ノーベル物理学賞

受賞理由

単純な系の秩序現象を研究するために開発された手法が、より複雑な物質、特に液晶や高分子の研究にも一般化できることの発見

受賞者

ピエール=ジル・ドゥジェンヌ
ピエール=ジル・ドゥジェンヌ

フランスフランス

解説

私たちの身の回りには、テレビやスマートフォンの画面に使われる液晶や、プラスチックのような高分子があります。ドゥジェンヌさんは、氷が水に変わるときのような“変わり目”を調べる道具を、液晶や高分子にも応用できることを見つけました。これにより、液晶画面をより鮮やかにしたり、丈夫で軽いプラスチックを作ったりできるようになりました。難しい実験をせずとも、数式で物質のふるまいが予想できるようになったのです。彼の研究は、私たちの生活を便利にする技術の土台になっています。

関連キーワード

液晶

液晶は液体の流動性と結晶の分子配列秩序を同時に持つ物質です。温度や電場で分子の向きが変わり、光の通り方が制御できます。ドゥジェンヌの理論は、液晶分子の配向変化を数式で表し、映像表示に必要な応答速度を予測できるようにしました。現在のLCDパネル設計では、この理論に基づく弾性定数と臨界挙動のデータが利用されています。液晶研究は、医療用温度センサーやスマート窓にも応用が広がっています。

高分子

高分子は多くの分子が鎖状につながった巨大分子です。プラスチックやゴム、DNAなどが例に挙げられます。鎖が絡まり合うことで粘り強さや弾力が生まれますが、長さや溶媒によって性質が大きく変わります。ドゥジェンヌは“爬行”というモデルで鎖の動きを説明し、粘度や拡散係数の予測式を導きました。これは産業用樹脂の加工条件最適化に不可欠な指標となっています。

相転移

相転移とは物質の状態が急激に変わる現象で、氷が溶ける、磁石が磁力を失うなどが例です。転移点では熱容量や磁化が特異的に発散する“臨界現象”が起こります。ドゥジェンヌはこれらの数学的特徴が液晶や高分子にも共通することを示しました。これにより、多様な材料の設計が一つの理論枠組みで扱えるようになりました。相転移の概念は、経済や生物集団の集団行動解析にも応用され始めています。

スケーリング則

スケーリング則は、物質の性質がサイズや時間スケールに応じて指数関数的に変化するという法則です。臨界点近傍では物理量がべき乗則で示され、普遍的な指数が現れます。ドゥジェンヌはスケーリング概念を液晶の弾性定数や高分子鎖の半径に適用しました。この考え方により、長さが10倍違う高分子でも同じ数式で挙動を予測できます。スケーリングは、ナノ材料から気象モデルまで幅広い分野で重要です。

爬行モデル

爬行モデルは、長い高分子鎖が周囲の鎖で作られた管の中を蛇のように動くという仮想モデルです。この考え方で、高分子の拡散や粘弾性の時間スケールを計算できます。ドゥジェンヌは爬行時間が鎖長の3乗に比例することを示し、多くの実験結果と一致しました。モデルは、ゴムの衝撃吸収材や3Dプリンタ用フィラメントの設計に応用されています。さらに、生体高分子が細胞内でどう動くかを説明する手がかりにもなっています。

臨界現象

臨界現象は、相転移点で現れる長距離相関やフラクタル的ゆらぎを指します。空間スケールが無限大に拡大し、系が自己相似になるため、物質の種類に依存しない普遍的指数が表れます。ドゥジェンヌは液晶や高分子というソフトマターにおいても、同じ普遍性クラスが成立することを実証しました。これにより、化学構造が異なる物質でも同一の数学モデルで扱えるようになりました。臨界現象の研究は、量子相転移や非平衡系の解析へと発展しています。