1993年ノーベル物理学賞

受賞理由

重力研究の新しい可能性を開いた新型連星パルサーの発見(Astrophys. J. Lett. 195 (1975) L51-L53; Astrophys. J. Lett. 206 (1976) L53-L58; Astrophys. J. 253 (1982) 908-920; Philos. Trans. R. Soc. Lond. A 341 (1992) 117-134; Phys. Rev. D 45 (1992) 1840-1868)

受賞者

ラッセル・ハルス
ラッセル・ハルス

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

ジョゼフ・テイラー
ジョゼフ・テイラー

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

解説

宇宙には「パルサー」と呼ばれる、灯台のように規則正しく電波を出す星があります。ハルスさんとテイラーさんは、そのパルサーがふたつ組になってぐるぐる回る珍しい連星パルサーを見つけました。この星は心臓の鼓動より速いリズムでチカチカ光り、正確な時計のように信号を送ってきます。二つの星が近づいたり遠ざかったりするにつれて信号の速さが少しずつ変わることがわかりました。これは星が目に見えない「重力波」を出してエネルギーを失っている証拠かもしれないと考えられます。こうして、重力のひみつを調べる新しい扉が開かれました。

関連キーワード

パルサー

パルサーは超新星爆発で生まれた中性子星が高速自転し、磁極からビーム状に電波やX線を放つ天体である。ビームが地球をかすめるたびに規則的なパルスが観測され、宇宙で最も正確な天然時計と呼ばれる。周期はミリ秒から数秒まで幅広く、時間変化の解析は星内部の超流動や磁場崩壊を探る手掛かりになる。パルサー観測は銀河系の電離ガス分布や距離測定にも利用され、天文学の多様な分野を支えている。近年は複数のミリ秒パルサーを同時に観測するアレイでナノヘルツ帯重力波の検出を目指す国際プロジェクトが進行中である。

連星パルサー

連星パルサーは少なくとも一方がパルサーとして観測される二つの高密度星のペアである。正確なパルス到着時刻を用いて軌道運動をマイクロ秒精度で測定でき、重力理論の厳密なテスト装置になる。軌道周期や離心率、周期変化率などのポストケプラーパラメータは一般相対性理論の予測と比較され、代替理論を強く制限する。エネルギー損失による軌道縮小は重力波放射の間接的証拠として歴史的な意義を持つ。近年発見されたダブルパルサーPSR J0737−3039A/Bは両星からのパルスが観測でき、高次PN効果の新たな検証場となっている。

重力波

重力波は質量の運動によって時空の曲がりが波として伝わる現象で、1916年にアインシュタインが一般相対性理論から予言した。連星系のような高速運動する大質量天体は強い重力波を放射し、エネルギーを失って軌道が縮む。ハルス・テイラー連星の軌道周期減少は重力波存在の最初の間接証拠となった。2015年にはLIGOがブラックホール連星合体からの重力波を直接検出し、間接・直接の両面で理論が裏付けられた。現在は地上 interferometer、宇宙機LISA、パルサータイミングアレイが異なる周波数帯で重力波宇宙を開拓している。

一般相対性理論

一般相対性理論は1915年にアインシュタインが発表した重力の理論で、質量やエネルギーが時空を曲げ、その曲がりが物体の運動を決めると説明する。ニュートン力学では説明しにくい水星近日点移動や光の曲がりを正確に予言した。重力波やブラックホール、宇宙膨張など数多くの現象が理論から導かれ、観測で次々に確認されている。連星パルサーはポストケプラー量を通じて理論の精密検証を可能にし、高次ポストニュートン展開の妥当性も試している。理論はGPS衛星の軌道補正から宇宙論モデルまで幅広く応用され、人類の科学技術を支える基盤となっている。

PSR B1913+16

PSR B1913+16は1974年に発見された最初の連星パルサーで、ハルス・テイラー連星とも呼ばれる。自転周期約59ミリ秒、軌道周期約7.75時間、離心率0.617という極めて精密に測定されたパラメータを持つ。1975年以降のタイミング観測で軌道周期が年当たり約76マイクロ秒短くなることが示され、重力波放射によるエネルギー損失と一致した。現在も継続観測が行われ、高次ポストニュートン効果やパルサー内部物理の研究に利用されている。この系は重力物理学における“ゴールドスタンダード”として半世紀近く引用され続けている。